夏土用入り



本日から旧暦の夏土用に入ります。土用といえば「丑の日の鰻」という固定観念は平賀源内が作った宣伝だったのですが、今では習慣にまでなっていて、宣伝効果の恐ろしさを改めて知るよい機会でもあります。実は夏の鰻は油が落ちて旨味が少なく、むしろ冬になって油の乗った鰻の方がおいしいという人もいます。鰻の裂き方が関東(正確には江戸文化圏)と関西(正確には非江戸文化圏)では異なり、関東は背開き、関西では腹開きで、これは切腹を嫌った武士文化だとされています。開いて焼いた結果を見て、背の皮でつながっている(つまり腹開き)なのか、腹の皮でつながっているかを気にしている人はほぼいないと思います。しかし調理法は異なるので、裂くための包丁は違っています。他の魚について、腹開きか背開きかを気にしている様子はないので、なぜ鰻だけ拘るのかも不思議です。ただし干物については多少の議論があるようで、見た目とか、内臓の油の残りとか、好みが分かれるようです。刺身にしてしまえば、どちらだかわからないので、普通は腹開きして内臓を取り除き、三枚におろすのが定番です。鰻は焼き方も違います。江戸前では開いた鰻をまず白焼きし、次に蒸して油を落としてから、再度焼き、タレを付けて蒲焼にします。江戸以外では蒸さず、白焼きをそのままタレ焼きにする「地焼き」をします。タレにも違いがあり、江戸前はあっさり醤油味です。テレビ番組では「ふっくらと柔らかく、あっさりして」というコメントは江戸前の鰻です。そのせいか、それがおいしい鰻という印象が刷り込まれていて、地方の鰻は皮も身も固く、タレが濃くて、こってりしている、という評価になっています。近年は稚魚の不作により鰻の値段が高騰したので、食べる機会も激減し、高級料理となったことで、誰もが味がわからなくなってきています。要は好みの問題なのですが、他の食べ物と違い、子供の頃から馴染んだ味ということでもないので、食べてみて決めるのが現代的といえます。最近、鰻の生態もわかってきて、完全養殖も可能になってきたそうですから、まもなく食べ分けられる時代が来るかもしれません。その際は夏の鰻と冬の鰻を比べてみるのもいいかもしれません。ちなみに今年の丑の日は24日です。土用というのは農業を休む日なので、身体を休めて栄養をつける休養日という期間です。旧暦の言い伝えでは、夏の土用には「う」の付く食べ物や「黒い」食べ物を食べるとよいと言われています。 「う」の付く食べ物には、うなぎだけでなく、梅干し、うどん、ウリ、うずらの卵、うど、ウニ、海ぶどうなどがあります。 鰻と梅干しの食べ合わせが悪いというのは科学的には根拠がないそうですから、お茶漬けに両方入れても問題ないそうです。黒い食べ物には、黒ゴマ、黒豆、ごぼう、黒酢、コーヒー、ココア、チョコレート、ひじきなどがあります。鰻は背が黒いので2つの意味が重なっているので縁起がいい、ということで広がりました。今は全身が黄色の黄金鰻や背が青い青鰻が珍重されていますが、それだと縁起から離れてしまいます。なかなかむずかしいものですね。

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