やまとことば⑪ みる1



「みる」は実際に視覚で「みる」の他に「観る、診る、視る、看る」と多くの漢字が充てられています。まずそれぞれの英訳語をみてみましょう。「観る」look on、watch、see、watch、view、take in、see、catch、watch、「診る」examine (medically)、「視る」presume、take for granted、assume、ward、guard、look on、watch、see、look、get a load、「看る」watch、attend、take care、see、lookとなっています。「診る」を除き、多くの訳語がついています。つまりそれだけ多くの意味を含んでいるということです。これは医療用語として使われる特殊な語彙のようなので、とりあえず除外します。そして、どの訳語にも共通しているのが、seeとlookとwatchです。そこからわかるのは、see,look,watchは英語では別々の語になっている、つまり分化しているのに対し、日本語では1つの語で包含している、ということです。1つの語が多くの意味を含む場合を多義語といいますが、分化と多義は対立的な現象でどちらがいい、ということではありません。もし異言語間で、語同士が1対1で対応していれば、翻訳は簡単です。しかし、そういう言語は存在しません。そもそも同一言語内にも方言があり、語の分化は多様なのです。それらの語彙の複雑な対応のリストが辞書です。だから辞書が分厚いのです。英語のテストの時に「単語帳」のようなリストを作成した思い出があると思いますが、あれは試験範囲という限られた範囲で使用するための語対応リストですから、汎用性はありません。目的は辞書を丸暗記するのは大変なので、記憶する範囲を限定して対応しようという「試験対策」にすぎません。しかし、困ったことに、この記憶訓練の結果、真面目な人ほど、しっかり記憶しているので、別の翻訳場面で誤訳が起こります。旅行用の便利帳などにも単語リストが載っていますが、これは旅行場面という限られた場面で使用される語彙は専門用語か「定番」となっている語がほとんどなので、受験用が旅行用に目的が変わっただけの単語帳といえます。受験用との違いは「持ち込み可」という点です。

「みる」は日本語では1語なのに、多くの意味を含んでいますが、さらに「~てみる」という用法があり、複雑です。「~てみる」はどういうものか結果を確かめるために実際に行為をすることで、意志動詞につきます。基本的に結果を確かめるために何かをすることが前提なので否定の形では使われません。「~てみない」という形は原則的にないわけです。しかし、「ちょっと食べてみない」というような、お誘いの表現はあります。これは否定語一般にみられる現象で、「飲みに行かない?」のように疑問の意味を加えることで勧誘の意味を表します。実はこういう複雑な用法は外国人はやや苦手ですし、AIも苦手なようです。この話は次に回すとして、まず「みる」という語について考えます。この語の意味が広いのに、会話の中、つまり口語では多用されています。日本語話者は同音語でも状況や場面から、すぐに意味が理解できます。これはこの語の意味が曖昧ということではなく、明確に区別できていると考えるべきです。

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