ハイジの日



8月12日はハイジの日だそうです。例の語呂合わせですが、ということは完全に日本だけということでもあります。アニメ「アルプスの少女ハイジ」は童話を原作とした日本製のアニメですが、海外でも放送されたため、スイス製またはドイツ製と思われていることもあるそうです。20年ほど前にスイスに行った時には現地の人は誰も知りませんでした。それは2019年までスイスでは放送されていなかったからだそうで、アルム地方を通過する観光バスの中で日本人ガイドがいる場合だけ「ここがハイジの村です」というアナウンスがありました。似たようなことがあり、「フランダースの犬」のラストシーンで有名なベルギ・アントワープのノートルダム大聖堂でも、今では多くの日本人が訪れる観光対象になっていますが、20年ほど前までは現場でこのアニメの話について聞いても誰も知りませんでした。そこでアニメの話をし「日本人がきっと来る」と教会の方に説明したところ、「確かに時々日本人が来て礼儀正しく見学した後、ネロとパトラッシュの亡くなった場所はどこか、と聞いて聖堂で涙しているのを目撃したので不思議に思っていました」という答えがありました。今ではモニュメントまであるそうです。当時の日本人のベルギー観光にはブリュッセルの小便小僧は世界的に有名で、ここを訪れてワッフルを食べたり、チョコレートを買うのは定番でしたが、アントワープまで行く観光は稀でした。
こうした「アニメの聖地巡礼」が今日本で流行っていて、子供の頃に日本製のアニメを見た外国人がたくさんやってきています。現在でも多くのアニメが世界で放送されているので、その影響力はすごいものがあります。日本の地方の小さな町の一部が聖地化して、現地の人々は訳も分からず突然観光客が増えて、慌てて商圏ができる、という状態になっています。そのブームに乗って、アニメとコラボする町おこしも増えてきました。
実は観光というのは元々そういうものです。昔はお伊勢参りや冨士講のような宗教行事とセットでしたが、近代になり学校で習った歴史や地理の勉強として修学旅行があって有名観光地に行くようになりました。年齢的にも初めての遠距離旅行だったわけです。テレビが普及して世界の観光地や日本の温泉などを紹介すると、今度は集団で海外旅行や国内旅行に行くようになりました。この傾向は今でも続いていますが、どちらかというと下火で個人旅行に替わりつつあります。テレビのステマ的観光番組以外にいろいろなガイドブックが出るようになったことが背景にあります。これらの共通点は日常生活にはない、ということです。観光の目的は非日常です。違う何かを経験したい、という好奇心が基本にあります。ディズニーランドが日本で流行るのは日本にないものばかりだからで、ヨーロッパであまり流行らないのはすぐに見られるものだからです。外国人観光客が日本の城とサムライやニンジャを見たがるのと同じ心理です。アニメの背景に描かれる街の風景は欧米人にとって非日常的なのです。日本人がハイジのアルプスに憧れるのも同じ心理で、このアニメは原作とはかなりかけ離れた創作であることも知らない人が多いのです。

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