考証を考証する(2)
考証を英語にしようとすると、investigation調査、study勉強、evidence証拠、documentation文献調査といった語彙が出てきます。一語で置き換えられる訳語がなく、日本語の幅広さを示す語ですが、訳語のどの語彙にも共通する意味は事実をしっかり検証するということです。
ところが最近のテレビドラマの多くは、昔のモノクロ映画時代のように背景に重点がなく、ひどい場合はストーリーやセリフ、小道具にも考証がなされていないものが増えてきました。おそらくは予算と時間がないからと想像しますが粗製乱造です。こうしたことを繰り返していると観客から見放されることは確かです。昔の映画は競争商品がなかったのと新しい文化なので、それでも通用したのですが、現在は競争商品があふれており、消費者の選択範囲が広がっています。実際テレビの娯楽ドラマ枠は撮影ドラマが激減し、アニメが圧倒的です。ドラマ撮影もロケではなくスタジオやセット中心です。刑事ものなどはコンクリート壁の部屋に机一つ、役者も普段着ですから、予算も考証も不要です。大型時代劇には大掛かりなロケもありますが、遠景や天候はどうにもならないので、史実を知っていると違和感があります。知らぬが仏、といえばそれまでですが、歴史物の場合はストーリーをそのまま信じる人もいるので責任は重大です。ロケ地では雨や雪は降らせることができますが季節は困難です。実際に合わせようとするとその時期に撮影しなければなりません。特定の場所の桜並木などは時期も限定されます。映画によっては何年もかける場合がありましたが、今では合成やCGが支援してくれますから、考証がきちんとしていれば違和感は減り現実感リアリティが増す作品が作れますが、よく見ると多少違和感は残ります。
これはテレビドラマや映画製作だけの話だけではなく、学問や教育の世界でも考証が疎かになっている傾向があるのが怖いところです。よく論文の証拠の捏造が話題になりますが、結果を急ぐあまりの結果です。予算と時間がないとつい悪事に手を染めてしまうのですが、個人の倫理問題だけではないといえます。日本の研究費は短期で成果を出すことが前提になっていますから、研究に精一杯で検証に時間をかけていると研究期間が過ぎてしまいます。期間終了後直ちに成果報告を出すしくみなので、その時間的制限に当てはめようとすると無理せざるをえない環境です。検証には研究の数倍の予算と時間がかかるのが普通ですが、検証に研究費が出ることはほぼないです。これが粗製乱造の論文が出る環境といえます。商品の場合は消費者が選択できますが、研究や論文は消費者がいませんし、市場もほぼありません。研究費を出す側の恣意で決まります。研究の中身より点数と国際評価だけが選択基準になっているのは交付側が中身の価値を判断する能力がないことを示しています。
考証は制作側だけでなく視聴者側もする時代です。インターネット検索の普及は消費者側も学習機会が増えているので、製作側はさらによく考証しないと不良製品と判断される時代になりました。創作には考証が不可欠という当たり前のことが復活することを願うばかりです。
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