大統領について
日本にはなぜ大統領がいないのか、疑問に思ったことはありませんか?「大統領」の訳語は、英語の "President" から来ています。この言葉はラテン語の "praesidere"(「指導する」「監督する」)に由来します。ラテン語のpre(前に)+sidere(座る)の合成で、「人々の前に座る=議長をする、司会をする」という意味です。米国では1787年の憲法起草時に「アメリカ合衆国大統領」という職名として「President」という語が初めて採用されました。「president」を「大統領」と訳したのは、幕末の日本でのことです。1853年にペリー提督が来航し、当時のアメリカ大統領フィルモアの手紙を持参しました。この手紙の署名にあった「president」をどう訳すかが議論されました。最初は「国王」と訳そうとしましたが、フィルモア大統領が町人出身であることを知り、町人を「国王」と呼ぶのは適切でないと判断されました。そこで、町人の中で最も偉い「棟梁(とうりょう)」に由来する「統領」という言葉が使われ、さらに「大」を加えて「大統領」という訳語が生まれたのだそうです。もっとも米国のトップに対して「大工のかしら」とそのまま呼ぶのはどうかということで、「棟梁」を「統領」に置き換え、さらに日本の将軍と釣り合うように「大」の文字を冠しました。こうして「大統領」という呼び方が生まれたようです。ちなみに、「統領」は「統(す)べおさめること。また、その人。統御者。かしら。首領」(広辞苑第6版)を表す言葉で、「棟梁」「頭領」も同様の意味を持っています。この訳語が広く定着するまでには時間がかかりましたが、最終的には「大統領」という言葉が一般的に使われるようになりました。英語のpresidentには社長という意味もあり、議長という意味もありますが、議長というのが原義に近いです。日本にはなぜ大統領がいないのか、という素朴な疑問に対してですが、日本は歴史的に天皇を中心とした専制政治が長く続きました。明治維新により近代国家としての体制が整備されました。その際、日本はイギリスの議会制民主主義を模範とし、天皇を元首とする立憲君主制を採用しました。そのため、大統領制を採用せず、今も天皇が国家元首としての役割を果たしています。実効的には首相が政治を司るのですが、天皇の任命によるという形式は今も続いています。世界の大統領制は一様ではありません。大統領制の形態は国によって異なります。アメリカの大統領制は強力な行政権を持つ一方で、フランスの大統領制は議会との共同統治の形を取ります。また、ドイツの大統領制は象徴的な役割が強調されていて、実効的には首相が行います。EU(欧州連合)には「欧州理事会議長」(President of the European Council)という役職があります。この役職はEUの加盟国の首脳が集まる欧州理事会の議長を務めるもので、EU全体の政治的方向性を決定する役割を果たしています。ただし、EUには「大統領」という役職はありませんが、日本では時々、大統領と呼んでいる例を見かけます。現在の議長はシャルル・イヴ・ジャン・ギスレーヌ・ミシェルですが、ほとんど知られていませんね。
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