修正終身雇用2 ― ポスコロ4 ―
労働力は安いほど良い、という経営思想は正しいでしょうか。商品販売において、仕入れは安いほど良いという思想の経営者が多いですが、安かろう悪かろう、という商売が儲かっているとはかぎりません。安い労働力の極点は奴隷労働ですから、この思想は植民地主義と同じです。植民地主義の時代の生産力がどのようなものであったかは歴史が示しています。産業革命がなぜ起こったかを考えればわかることですが、奴隷労働に近い家内工業の生産性の低さを改善するために機械生産による大量生産の必要性があったわけで、米国史を見れば南部の奴隷労働の綿花産業が北部の機械工業の鉄鋼産業へとシフトすることで米国経済の発展があったことが明確です。日本の明治維新から昭和にかけても農民人口を機械労働人口にシフトさせることで生産性を高めていきました。現在でもIT化という省力化が進んでいますが、こうした労働人口の推移には教育が不可欠です。教育は国政にとって税の支出であり投資です。安い労働力は低い教育成果の結果です。日本は将来の安定を求める国民に教育費を負担させてきました。日本の私学が世界に比べて異様に多いのはそのためです。諸外国では教育費は国庫負担が常識です。教育費の国民負担は国民が貧しくなれば限界がきます。労働者の能力資質が安かろう悪かろうになっていくことになります。
こうした現状を打開する政策としては、まず国策として教育に投資することで、企業に無担保無利子融資をするくらいなら、国民にそれを実施すれば必ず投資効果が表れます。一方で企業の定年再雇用には制限をかけます。雇用は企業と労働者の契約ですが、再雇用は一方的に企業が有利になっており公平な雇用契約とはいえません。再雇用についてはこれまで通りの賃金を保証しなければ不公平です。そうなるとどの企業も再雇用はしない、というのは経営側の理屈です。必要な人材は雇用しますから、再雇用はリストラのさらに酷くなった状態といえます。一方で役員はどうなのでしょうか。ピラミッドの頂点である役員は定年がなく、給与体系も役員報酬という別会計、別税制になっています。この税制の思想としては、役員は経営責任があり会社の利益から分配を受けるということで労働者の給与のような経費にはならないということです。資本主義では役員は株主と重複しており、株主の中に株主配当のみの外部資本家と役員報酬も受ける内部資本家がいるというしくみです。この税制の根本は資本家と労働者を対峙させる思想であり、英国エリザベス朝が始めた株式資本主義の思想が今も続いているわけです。しかし王族と貴族が資本を独占する時代は市民革命とともに終わり、株式は公開により市場化され民衆化されることで流動性は増しましたが、一方で王族や貴族に代わる新たな金融王という存在が市場支配するようになったのが現在です。武力の代わりに金融を武器とした経済支配勢力です。この支配勢力は労働者の教育に関心がありません。王侯貴族が武力を利用していた時代は人力が重要なので富国強兵が必須でしたが、金融支配勢力に必要なのは武力でなく情報です。産業革命によって集約的労働力が機械化にシフトしたように、人力よりは情報処理化にシフトしたわけです。
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