あやしい、を考える
「あやしい」という言葉はニュアンスが広いです。「疑わしい」「いかがわしい」「うさん臭い」など、様々な言い換えができます。これは英語などに訳す時に間違えそうです。「あやしい」の語源は、感動詞「あや」から派生した形容詞です。この「あや」は「不思議」「奇妙」といった意味を持ち、そこから「あやしい」という形容詞が生まれました。「あやしい」の意味は時代とともに変化してきました。古典の時代には、「不思議な力や神秘的な感じ」を表す意味で使われました。たとえば現代でも「宝石があやしく光る」というような用法が残っています。中世から近世にかけて、不気味や気味が悪いという意味が加わりました。「あやしい鳴き声」というような用法です現代になって、疑わしいや信用できないという意味が強調されるようになりました。「あやしい男がうろつく」のような用法です。また男女関係において、「友人以上の関係にある」ことが疑われる場合にも「あやしい」が使われます。「あやしい」と感じる対象はけっこう広いのです。英語ではsuspicious, doubtful, questionableなどの表現の他、shady, fishyなどという表現もあります。それぞれsuspiciousは不審を抱く場合で「うさん臭い」というニュアンスがあります。Doubtfulは実際の事物が疑わしい場合で、「彼が実際に来るかどうかはあやしい」のように、「うさん臭い」という感情的なニュアンスはありません。Questionableは「疑問の余地がある」という程度の疑念であり、完全に否定しているわけではありません。Shadyはshadeが「陰」なので、うさんくささが強くなります。「いかがわしい」というのが当たっています。Fishyはfishが魚ですが、「ありそうもない」という強い否定的なニュアンスがあります。 何かが信頼できない、あるいは不誠実であると感じたときに使われる表現です。たとえばHis explanation sounds fishy.(彼の説明は怪しい。)There’s something fishy about this deal.(この取引には何か怪しいところがある。)などです。
Fishy の語源は、そのまま「魚」(fish)から来ていますが、この表現が怪しさや胡散臭さを意味するようになった理由は、魚が腐ると強い異臭を放つからだと言われています。つまり、悪臭がするもの、腐敗しているもの、疑わしいものを連想させるために使われるようになりました。なぜ魚なのかというと魚は腐りやすく、悪くなるとすぐに強い匂いを発します。このため、何かが「怪しい」「胡散臭い」と感じる状況を「fishy」と表現するようになりました。これは新鮮な魚をイメージする日本文化と生の魚が食べられない文化である英語圏との違いでしょう。他にも比喩的な使い方として、英語では、匂いに関連する表現が多く使われます。例えば、「stink」(臭う)は「何かが怪しい」と感じたときにも使われます。このように、「あやしい」は時代とともにその意味を広げ、さまざまなニュアンスを持つ言葉になっていますが、文化圏の違いを基盤にしたニュアンスもあり、翻訳すると間違えそうな語でもあります。そのせいか、shadyやfishyはあまり正式な文章にはでてきません。しかし文学には出てくるので要注意です。
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