言語技能測定技術と言語教育理論⑫ 指文字のしくみ


コラム挿絵:手話技能検定のイメージ画像

日本の指文字は聴者が作りました。いろいろな試作がありましたが、現在の指文字は大曾根源助という大阪ろう学校の教員が、仲間と作った、というのが定説になっています。彼は渡米して、かのヘレンケラーに会ったり、ろう学校を見学する中で、聾児に国語を指導するには指文字が必須であると痛感し、アメリカ指文字を参考に日本指文字を考案したとされています。指文字を見るとわかるように、アメリカ指文字を起源とするものが多いのは、それが理由です。これは推定ではなく、大曾根グループが作成した指文字表には起源が明記されています。「あいうえお」は米指文字のAIUEOから採っていますし、ア段つまり「かさたなはまやらわ」はKSTNHMYRWから採用しています。ただし「た」はTそのものではなく、その形が日本では仕草として性的な意味があることから、変形しています。それだけでは五十音に足りませんから、次は数字との語呂合わせをします。日本語では、今も二を「に、ふ」と読んだり、三を「さん、み」と読んで語呂合わせをすることが頻繁に行われます。「夫婦の日」「文の日」など記念日の多くが数字の語呂合わせです。そこで二、三、四、六、七、九、千が「にみよくむくち」に充てられました。五と八が抜けているのは、「ご」であり、清音でないからです。八の手型は作りにくい形だからなのと「は、や」は既にアルファベットでできているからです。一は「い、ひ」として使えそうですが、「ひ」として採用されました。手話数字一を「ひ」としなかったのは、漢数字が漢音であるのに対し、「ひとつ」という和語であるから、という説明もありますが、それなら三を「み」と読み、四を「よ」と読む、また六を「む」と読むこととの整合性がありません。推測になりますが、この研究グループでは、そうした理論的な合理性よりも、実用性を急ぎ、「適当な」理由で選定していったのかもしれません。それが窺われるのが、「つ」です。「ちの次だから」という理由で、薬指を立てる形を創造したのですが、それが促音として「っ」に頻用されることは想定していなかったようです。この「失敗」が今でも指文字使用者を悩ませています。アルファベット、手話数字と使用して、次には象形つまり仮名を手で作るという方法を採りました。これは大曾根グループの創成ではなく、明治以降に工夫された、いくつかの指文字案でも使われました。そもそも欧米の指文字も起源は象形であることがわかっていますから、自然は発想といえます。「こすふへるれろ」はカタカタのコスフヘルレロを象形しました。それでもまだ足りないので、空中に文字を描く方法つまり「空書」(くうしょ、そらがき)を採用し、「のりん」を作りました。さらに足りない分は頭韻法つまり「単語の頭文字」を利用します。「き」は狐、「せ」は背高指、「そ」は「それ」、「て」は「手」、「ぬ」は盗む、「ね」は根、「め」は目、「ほ」は帆掛け船、「ゆ」は湯です。「け」は、本来は「欠損」ですが、障害者に対する差別意識を考慮するようになり、後日「敬礼」に語源が改められました。「と」と「も」は手話から採用しました。これで五十音の完成です。

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