言語技能測定技術と言語教育理論⑬ 指文字のしくみ(変化音)

五十音の作成も後半はかなり苦労したようすで、起源も無理が見られます。大曾根以前の指文字では、文字になんとか似せようと、無理な手型を創案していました。そのため実用となると、むずかしく普及しませんでした。いわば机上論であったのに対し、大曾根グループ(以下G)はなんとか実用に近づけたため、今日でも使用されています。大曾根グループ式の特徴の1つが濁音、促音、拗音などが動きで表現されることです。日本語の音韻体系では、撥音や長音もあるのですが、大曽大根G式ではなぜか、撥音は「ん」、長音「=」で表すルールになっています。促音は小さい「っ」ですが、大きい「つ」との区別のためか、「手前に引く」という動きを付けています。同じルールなのでしょうが、拗音も小さい「ゃ、ゅ、ょ」なので手前に引く動きを加えています。この動きのルールは、他の小さい「ぁ、ぃ、ぇ、ぉ」にも適用されるので、創作当時は恐らく意識されていなかった外来語にも応用されることになりました。問題は大曾根G式では「お」と「を」を区別するために、「を」も手前に引くルールを作ったことです。「を」は拗音でもなく、小さい文字でもないため、結果として小さい「ぉ」と「を」が同じ形になってしまいました。つまり大曾根の時代は小さい「ぁ、ぃ、ぇ、ぉ」は、ほぼ意識されていなかったと推測されます。濁音は体側の外側に動かします。よく「右側」という説明が見かけますが、これは左利きの人を想定していない説明であり、左利きの人は左手を左に動かすので、どちらの手も「外側」というのが正しい説明です。同側、異側というような概念もありますが、これはアメリカ手話学の受け売りであり、外側、内側という方が日本的にはわかりやすいと思われます。日本語には半濁音という特殊な音韻があります。「は」行にしか存在しないのは理由があり、日本語が古来、h,p,bが入り乱れた音韻体系をしているからですが、詳しい説明は関連分野を検索してみてください。大曾根G式では、半濁音を「上」に動かすルールを作りました。つまり清音文字を上、外、手前に動かすルールにしました。大曾根G式の改良版である、栃木同時法式では、長音を「―」ではなく、「下」に動かすというルールにしたため、清音文字が上下、外、手前と4方向に動くことになりました。このルールは読み取る側に非常な負担がかかります。静止した手型を読み取るだけならば比較的わかりやすいのですが、動かれると読み取りにくくなります。たとえば「ルー」と「ルール」と「ルル」の識別が困難になります。実際、手話で「ルール」をする場合は両手を使います。これらの問題は、実は奥が深く、「文字はデジタル」であるのに対し、指文字は動作なので「アナログ」であることなのです。デジタルの場合は文字と文字の間は空白ですが、アナログ表示の場合は、1つの状態から、次の状態に移るための「遷移」(または「わたり」)があります。認識上、遷移は無視され、「ないこと」としなければなりません。これは手話を機械で認識する場合にも関わってきます。読み取りとはアナログデータのデジタル認識が本質なのです。
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