International Translation Day



翻訳家の権利と表現の自由を維持するために活動を行う国際翻訳家連盟が(International Federation of Translators:FIT)が制定し、国際連合により2017年の総会で国際デーの一つである「国際翻訳デー」に制定されました。翻訳家など言語の専門家の仕事に敬意を表する機会とすることが目的だそうですが、つまりは翻訳家の地位はけっこう低いということでもあります。今ではグーグル翻訳などで手軽に外国語の翻訳ができるので、翻訳家の地位と報酬はますます低くなってきています。
日本では一般社団法人日本翻訳連盟(Japan Translation Federation:JTF)により「翻訳の日」に制定されているそうですが、私自身、翻訳経験がありますが、同協会にお世話になったことはありませんし、存在も知りませんでした。
9月30日が選ばれたのはキリスト教の聖職者・神学者で、聖書原典をラテン語訳したことで知られるヒエロニムス(347年頃~420年)が亡くなった日にちなんでいます。ヒエロニムスはアンティオキア教会の教父ですが、正教会・カトリック教会・聖公会・ルーテル教会でも聖人とされています。彼は382年頃、ローマ教皇の要請で、それまでの新約聖書のギリシア語聖書からラテン語への翻訳によって聖書の統一を行い、さらに旧約聖書もギリシア語およびヘブライ語の原典からラテン語訳したことで今日の聖書の元を作ったとされ、それが正典(カノン)となっています。その後、1381年、ジョン・ウィクリフが英訳聖書を作り、1522年ルーテルがドイツ語訳を、1525年、ウィリアム・ティンダルが原典から英訳したことが宗教革命につながり、ラテン語聖書のままのローマカトリックに抵抗(プロテスト)して新派を作ったことはよく知られています。聖書翻訳は時代を変えるほどの影響力があったわけです。
「翻訳は言語の異なる各国を結び付け、対話・理解・協力を促進し、発展に貢献し、世界の平和と安全を強化する上で重要な役割を果たす」と翻訳家連盟は主張します。「専門的な翻訳は、国際的な公の会話などの意思疎通において、正確性や生産性を保つためにも不可欠である」とも主張します。しかし日本は昔から文典を輸入し、宗教だけでなく海外事情の理解にも努めてきました。とくに明治以降から現代に至るまで翻訳の果たす役割は大きく、そのために日本語自体が発達したことも否定できません。翻訳の際、自国語に該当するものがないと非常に苦労します。明治時代には翻訳のための造語が盛んに行われ、それが今日では普通に流通していますし、同じ漢字文化圏の中国や朝鮮半島にも輸出されました。翻訳技術の低い国は外国語のまま輸入せざるを得ないので、世界に英語国が多いのはその結果ともいえます。日本人の英語下手を批判する人もいますが、それは翻訳技術が高かったことの裏返しです。

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