手話の雑学2

手話の指導法は、先生や地域によって、多少の違いはありますが、全国のどこでも、似たような形式になっています。しかし実用的な側面を考えると、「あなたの名前は何ですか?」という日本語は変です。普通の状況では「お名前を伺っていいですか?」とか「お名前は?」といいます。つまり「あなたの名前は何ですか?」という日本語文は手話表現に合わせた文です。こういう「教科書文」はどの言語教育でも普通に存在します。たとえば昔の英語教育では「This is a pen.」が最初に載っていて、「これはペンです」と習いました。あるいは「I am a boy.」というのもありました。実際の英語でこんなことを言うことはまずないです。日本語でも「私は少年です」という文が変ということはわかります。つまり、教科書というのは教科書の著者が「これが基本だ」と思ったものが選別されているわけで、現実を考えたものではありません。これが「学校で習った英語は実用的でない」ということの理由の1つです。
この「教科書例文」は確かに「基本的な構文」を示してはいるのですが、あくまでも架空のものです。言い換えると、言語教育者は「特定の偏見」をもっているわけです。そして手話教育も例外ではありません。その偏見の1つが「手話と身振りは違う」という主張です。正確には「手話には身振りを使う表現もあるし、手話独自の動作もある」です。たとえば<男>や<女>は身振りと共通です。手話の語源を調べると、身振りから採ったものが大変多いのです。確かに違う部分もありますが、同じ部分や似ている部分が多いのです。そこが日本語とは違う点です。日本語では身振りと同じ語はほぼありません。よく「ワンワン」などの擬音語は身振りと同じという人がいますが、身振りは動作であって、擬音語は音声による真似です。
手話が身振りと共通点が多いことには理由があります。その理由の1つが、日本語や英語のような音声言語は音声を使うのに対し、手話は両手や身体を使って空間を利用することにあります。音声は口が1つしかなく、一度に1つの音しか発生できません。耳は2つあって、右耳と左耳で2つの音声を聞くことができますが、脳は言語音として1度に1つしか認識できないしくみになっています。音声は耳で聞く、というのが一般常識ですが、実際には「音は脳で聞く」のが正しく、脳の聴覚認識機能が壊れると耳が正常でも聞こえなくなります。たとえば、熱が出て頭がボーっとしている時は聞こえが悪くなります。つまり聴覚障害には2種類あって、耳の機能が悪くなる場合と脳の機能が悪くなる場合があります。この話は、ここではこれ以上踏み込みません。
耳と違い、目は2つで立体視するしくみです。片方の目で平面を認識し、左右差で立体認識します。そして手は2本あり、身体も使って表現するのが手話なので、立体表現ができ、脳も立体を認識します。音声言語と手話言語の決定的な違いがここにあり、言語としての性質も違います。そして同じ真似でも擬音語と身振りではその違いがあるわけです。
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