手話の雑学50


手話で話す女性のイラスト

名詞に関わる文法には、数、人称、性があります。英語ではこうした文法のほとんどが代名詞で表現されます。名詞は数しかありません。西洋語では、名詞と代名詞の文法的な区別は少なく、代名詞は名詞の一部と考えてもよいと思われます。数は冠詞でも表現されます。フランス語やドイツ語では、名詞と冠詞に数と性があります。日本語には冠詞がないので、わかりにくく、覚えにくい要素の1つです。

日本語の人称を表す名詞は独特で、社会的地位を表現し、数や人称や性はほとんど表現されません。日本語の代名詞は「こそあど系」と呼ばれるもので、「これ、それ、あれ、どれ」のように変化があります。これを文法では近称、中称、遠称、不定称と呼んでいます。内容は「話し手からの距離」を表すという、他の言語にはあまりみられない文法です。英語にもthis,thatのような距離感を示す代名詞がありますが、これだけです。日本手話では、距離感をどうやって表現するか、というと、アナログな空間上に指差しで指定されます。これも手話の特徴です。音声言語では、デジタルというか、区切って表現します。少し難しいですが、情報科学などでは、区切って勘定できるものを離散的といい、反対につながっていて区切れないものを連続的といいます。日本語や英語の代名詞は離散的なのに対し手話の代名詞は連続的なのです。代名詞だけでなく、手話の語の多くが連続的なのに対し、音声言語の語は離散的、ということができます。音声言語でも音声そのものは連続的なのですが、言語として認識する場合は離散的要素として認識します。実は今のコンピュータも離散的要素の計算からできています。最新のAIも同じしくみです。ところが、人間の身体のしくみや行動は連続的つまり非離散的です。この人間の非離散的な要素を離散的に変換するしくみの1つが言語です。言語は人間の思考とか感情などを論理的な要素の組み合わせに変換するしくみであるといえます。

音声言語や文字は離散的なしくみです。しかし手話は人間の行動と同じく連続的な要素のままです。それが、手話は言語か、という長年の課題の原因でした。言い換えると、手話は非離散的な言語という存在です。問題は、手話を理解するということは、一旦離散的要素に変換して認識しているのか、変換しないでそのまま理解しているのか、という新たな課題を考えることになります。このように考えていくと、手話という言語を研究していくには、音声言語の離散的しくみをどこまで参考にできるのか、という問題につながります。しかし、よく考えて周囲を観察してみると、人間のコミュニケーションはすべて言語で行われているのではなく、「非言語情報」といわれる身振りや所作などから情報をやり取りしていることがあります。感情的な伝達はむしろその方がよく伝わることがあります。お辞儀をしたり、握手をしたり、抱き合ったり、西洋ではキスをしたり、いろいろな人間の行動が文化を作り上げています。表情もその1つといえます。

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