手話の雑学52

手話は成り立ちの歴史からも身振りとの関係性が強く、言語と非言語の境目が曖昧です。それはある意味、音声言語より訴求力があるともいえます。いわば「手話は音声言語と身振りの中間」あるいは「両方の要素を含んでいる」といえます。そして近代化によって、国語との接触が増えるにつれ、音声言語との混淆(こんこう)が進んでいきます。結果として、手話の中に身振り的要素の多い言語変種と、音声言語的要素の多い言語変種ができ、それは1つの連続体のようになっていて、境目が曖昧のまま、概念化されている、といえます。
この「連続体」という概念は、色でいう「黒と白」「赤と白」のような関係から類推できます。黒と白の間には灰色があり、灰色には濃い灰色と薄い灰色があります。赤と白の間には濃いピンクと薄いピンクがあります。言語上はこのように3つくらいしか分類できません。連続的なものを離散的に概念化すると、そのラベルは少なくなります。こうした混淆の例として、コーヒーと牛乳を混ぜれば、コーヒー牛乳になりますが、この表現は2つを合成したにすぎません。つまり中間段階をうまく表現することは意外にむずかしいのです。それはカフェオレのように外国語を使用しても語源的には2語の合成であることがわかります。このように「混ぜ物」を離散的な要素に分解することは案外難しいものです。コーヒー牛乳の場合は、元の要素が明確なまま第3の要素になります。しかし水素と酸素を合成して水にする、という場合、元の要素はなかなか想像できないです。このように、元の形が想像しやすい合成と、元の形が想像できず第3の形になる合成があります。言語の語と語の結合の場合、前者が連語、後者が複合語です。
ここでいう要素とは意味のことです。言語学的表現をすると、元の語の意味を保持したままの語結合が連語、語が結合して意味を新たに作りだす場合が複合語です。一般的な表現ではどちらも複合語ということがあるので、混同しないように注意してください。日本手話の例としては、「日本手話」は「日本」と「手話」の連語です。そして「日曜日」は「赤」と「休み」の複合語です。連語の方は新しくその組み合わせを覚える必要がないので、学習上の負担は少ないのですが、複合語の方は別に覚えなくてはならないので、負担が増えます。手話学習の現場では、あまりそのことを意識しないで、指導していますが、機械に学習させる場合は重要な要素となります。「単語辞書」と「複合語辞書」が必要になります。
現在の日本手話辞書では、この2つを区別しているものはありませんが、それは「日本語ラベル」が見出し語になっているからです。「日曜日」という日本語は「日」と「曜日」の連語で、「日」が「月、火…」のように組み合わせを変えることでできています。それに対応する日本手話は「曜日」を表現せず、「月、火、水、木、金」だけで曜日の意味になります。この日本語と日本手話の対応関係を見ると、「手話には曜日という概念がない」あるいは「手話は月曜日と月の区別がない」というような日本語話者からの誤解が生まれてきます。
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