手話の雑学54

西洋語の名詞と代名詞と冠詞の関係を理解するには、名詞には、内容を示す語幹に、冠詞と数が義務的に付加される、という新しい文法観が単純です。ただ学校文法が染み込んでいるとなかなか、理解しづらいと思います。とくに英語が得意だった方には混乱が起きそうなので、この項は飛ばしていただいた方がいいかもしれません。
新しい文法概念では、名詞は意味の核となる語幹部分に、前に冠詞、後ろに数の形態素が付随して名詞(正確には名詞句)を形成します。そして冠詞と数は連動します。英語で「犬」は「a dog」です。「dog」だけでは文の中に存在できません。冠詞a と単数(形がない)が付随しています。記号的に書くなら、「a dog (単)」ということです。複数形にするには「the dogs」で冠詞、語幹、数が全部揃っています。そして「a dogs」は文法違反です。冠詞aは単数のみ、theは単数、複数両方に使えます。冠詞は指示代名詞this, that,these,thosseの他にsome, many, each, every,allといった「数量詞」に換えることができます。従って、冠詞と指示代名詞は共存できません。こうした文法により「this dog, these dogs, that dog, those dogs, some dogs, many dogs, each dog」のような変化形が生み出されるしくみです。規則としては意外に単純なものです。これが西洋語の「名詞のしくみ」です。言語によって多少の違いはありますが、概ね同じ構造をしています。そのため、欧米の言語学者はこれが「言語に普遍的な構造」と思い込む傾向がありますが、もちろん、欧米の言語つまり印欧語族以外の語族の名詞の構造はいろいろなタイプがあります。とはいえ日本語のように「社会的地位」を示す語彙が多い言語は少ないようです。中国語や朝鮮語でも、ある程度社会性を示す人称名詞が使われることがあり、タイ語やビルマ語でも見られるようなので、アジア系の言語には社会的地位を示すことに関心がある文化が多いのかもしれません。いずれにせよ、欧米の言語だけを比較して「普遍的特徴」と観る言語観は誤りといえます。
そこで、日本手話を考える場合、英語文法や日本語文法との比較をする際には、同じ枠組みで研究するのではなく、独自の枠組みがある、と考えて研究する姿勢が重要です。まして音声言語と手話言語では、構造がまったく異なっていても不思議ではありません。日本手話の名詞の構造はどうなっているのか、未だ決定的な説はありません。少なくとも冠詞はないことはわかっています。名詞の数はどうなのかというと、これもはっきりしません。日本語の名詞同様に、数概念が名詞にはない可能性はあります。しかし、日本手話の語彙の中で、明らかに名詞と思われる語は「名前」や「鼻」のような語がありますが、実は日本語のように語として独立した構造ではなく、後述するCLと呼ばれる形態素の組み合わせでできていることが多く、動詞との区別がむずかしいしくみになっています。日本語の「名前」は「名」と「前」には分解できないので、1つの形態素からできている語と考えられます。それは「鼻」も同じです。
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