手話の雑学67


手話で話す女性のイラスト

日本手話では「主語機能を果たす名詞句は動詞に内蔵され、項の数は1の場合と2の場合がある」という規則で説明できます。この説明により、英語と日本語と日本手話の基本文法の違いが対比的に示すことができました。「手話は言語である」という抽象的な議論も、ろう運動としては重要かもしれませんが、言語学的には「どういう言語か」ということがより重要です。違いはこれだけではありませんが、まず主語、述語の構造という基本的な文法を押さえておきます。英語では、主語と述語が必ずあります。しかし日本語では、主語がなく、述語だけの文が普通にあります。では日本手話はどうかというと、これが簡単には行きません。音声言語では、主語となる名刺も目的語になる名詞も「語」として表れています。だから、それぞれを外項、内項と分類できます。ところが、日本手話では、それぞれの項が動詞の中に内蔵されているので、外項でも内項でもないのです。そのため、主語や述語という用語も使えません。そこで現代言語学で使う名詞句、動詞句という用語を使って説明すると、英語と日本語と日本手話の構造的な違いが明確になります。

以上で図示したように、言語のレベルを考慮して考えると、三者の違いがわかります。このレベルの違いを無視して、主語、述語、目的語といった概念を考えても、混乱するだけです。またこの説明から、日本手話については、形態素レベルの考察が基本になることもわかります。

ところが、辞書作りは旧来のままです。現在の辞書は「語対応」であり、英和辞典も和英辞典も「見出し語」という辞書をひくための項目があり、いわゆる「単語」で意味を調べる構造になっています。日英語であれば、それでも有用ですが、「手話辞典」がそれでいいか、というと、そうはいきません。言語レベルが異なります。つまり「新たな辞書思想」が必要ですが、現状、それを解決した辞書は見当たりません。実際はどうなっているか、というと、手話をイラストで示して、文章で解説する、という形式がほとんどです。これでもおおよその実用にはなります。日英語であれば、語対応ですから、可逆的辞書、つまり英和辞典と和英辞典は割と簡単にできます。しかし日本語と日本手話辞典はレベルの違いがあるので、簡単に可逆化できません。

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