小雪


十三夜の月のイラスト

晩秋の気配がいよいよ深まり、冬の入り口に立つころ、二十四節気のひとつ「小雪(しょうせつ)」がやってきます。小雪とは文字通り、雪がちらほらと降り始めるという意味で、まだ本格的な冬ではないものの、寒さの中に確かな白の気配を感じさせる節目です。

七十二候では「小雪」は次の三つに分けられます。

初候は「虹蔵不見(にじかくれてみえず)」。
秋までの雨上がりの空にかかっていた虹は姿を消し、空気は澄みながらも冷たく乾いた季節に入ります。日差しが弱まり、空の色も淡い冬の青へと変わっていくころです。

次候は「朔風払葉(きたかぜこのはをはらう)」。
北から吹く寒風が木々の葉を払い落とし、地面は落葉の絨毯となります。「朔風(さくふう)」とは北風のこと。季節風が強まり、木枯らしが吹く時期にあたります。関東地方では「木枯らし一号」が観測されるのもこのころで、人々は風の冷たさに冬支度を始めます。

末候は「橘始黄(たちばなはじめてきばむ)」。
冬にも青々とした常緑樹の橘(たちばな)の実が黄色く色づき始めるころです。橘は古来より日本人に親しまれ、『古事記』や『万葉集』にもその名が登場します。冬に実を結ぶことから、不老長寿や再生の象徴として神事にも用いられてきました。寒さの中にも命の色を宿す橘の黄は、冬の訪れを柔らかに告げる彩りです。

小雪のころの日本列島は、地域によって表情が大きく異なります。北国ではすでに雪の便りが届き、初雪に心躍らせる人々の姿が見られます。一方、西日本や太平洋側では、冷たい雨や朝霜が冬の前触れとして現れます。農村では収穫もほぼ終わり、田畑は静まり返ります。乾燥が進むため、火の用心が呼びかけられるのもこの季節です。

古人にとって小雪は、自然の移り変わりを細やかに感じ取るための目印でした。まだ「大雪(たいせつ)」には至らずとも、冬が確実に近づいていることを肌で知る時期です。その名の「小(しょう)」には、「少し」「わずかに」という謙虚な感覚が込められています。自然を大げさに語らず、わずかな変化の中に季節の趣を見出す日本人の感性がそこに息づいています。現代の暮らしでは、気候変動の影響もあって、雪の到来が遅れる年も少なくありません。それでも、空気が澄み、吐く息が白くなると、人々は無意識のうちに冬の訪れを感じ取ります。街路樹の葉が散り、夕暮れが早まり、鍋料理の湯気が恋しくなる。そんな小さな変化が積み重なって、暦の言葉が現実の感覚と結びつくのです。空を見上げて「虹がもう見えない」と感じる瞬間に、古人の心とつながることができる。季節を数値ではなく、五感で測るというゆたかな時間を取り戻したいものです。もっとも地域によって、差が大きいのもこの季節です。南北に長い日本列島は北から順に紅葉情報があり、冬の季節がやってくる、というのもまた自然の移り変わりを知ることができます。

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