手話の雑学85

Deaf Dogs Rock の哲学として、この団体の中心には、ひとつのシンプルな信念があります。
“Deaf dogs are not broken. They are simply different.”(デフドッグは壊れてなんかいない。ただ、世界の読み方が違うだけだ。)
音声を失っても、視線、触覚、空気の揺れ、光のパターンを使って世界を読む能力は健全そのもの。犬は音に依存しないので、聴覚障害は「言語モダリティの変化」として理解するほうが本質に近いです。Deaf Dogs Rock は、この思想を実践する団体だと言えます。デフドッグ文化への貢献として“deaf dog”が殺処分されやすいという構造的な問題を、最初に大きく可視化しました。ハンドサイン教育を広め、「視覚ベースの犬のコミュニケーション」を一般化しました。保護犬文化の中に「感覚の多様性」という視点を持ち込み、障害を「欠損」ではなく「多様性」として捉える姿勢が、動物福祉や手話文化の議論とも重なり合っているといえます。こうした背景を踏まえると、Deaf Dogs Rock は単なる保護団体ではなく、「感覚の多様性(sensory diversity)」を社会に伝える文化運動の一部と言ってよいと思います。日本ではまだこういう思想は普及していませんが、欧米ではかなり普及しつつあるようです。日本では聴導犬という聾者の支援が中心で「役立つ犬」という思想が中心ですが、ペット文化が広がっている現在、「動物の多様性」も考えるべき時期にきているといえます。デフドッグ訓練で使われるハンドサインは三要素で構成されます。
形(handshape):開いた手・指差し・拳など、視覚的に識別しやすい形。
方向(orientation):手の向きや角度が意味を手助けする。体側か前方か、斜めか。
動き(movement):軽い振り、上下の切り下ろし、前への押し出しなど。
犬はタイミングの変化をよく拾うため、動きは意味の中核になります。
手話学の「音韻(手の形・位置・動きの三要素)」と驚くほど似ていますが、決定的に違うのは「文法性」がないことで、ハンドサインは基本的に「単語」レベルで使われます。手話学においても音韻が同一の重みがあるのではなく、動きが最重要であるという指摘もあります。
デフドッグ訓練の代表的なサインをいくつか挙げると──
・おいで(COME):手を大きく体に向けて引く。
・すわれ(SIT):指を立てて円弧を描き、腰を下げるように示す。
・まて(STAY):開いた手のひらを正面に向けて静止。
・よし(FREE/RELEASE):軽い弧を描く手の動き、または手を外へ払う。
多くは図像性(iconicity)に基づき、動作のイメージをそのまま形にしています。これらのサインはペットのしつけにも使えます。ただ日米のジェスチャー文化も異なるので、日本版を作成する必要もあるかもしれません。
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