手話の雑学90

言語の進化過程を考えると
・象徴化 → 記号が世界から独立する
・身体性 → 記号を運ぶ媒体が発達する
・文法 → 記号どうしが無限に組み合わさる
これが人間特有の言語能力の発火点と考えられています。手話の「空間文法」は、人間の言語がどのように生まれたかを考えるうえで、とても面白く、手話は“化石のような現代言語”です。化石と言うと古びたものに聞こえますが、実際は進化の痕跡を保持しつつ高度に洗練されたシステムです。つまり、言語の起源を知りたければ、手話の空間文法を研究することが役立つ。そんなふうに言いたくなるほど、手話は「文法の原型」を濃厚に保持しています。
次に、どの点が原型的で、どこからが高度な言語なのかを丁寧に辿ります。
1.空間は「文法化しやすい」
手を自由に使える動物であれば、空間を舞台に情報を表象することは自然です。人間の手話言語は、この“自然な身体性”を文法レベルにまで昇華させています。象徴化の萌芽で見られる特徴(指差し・方向性・位置取り)は手話では完全に文法化します。手話では、二者を空間上の点A・点Bとして配置すると、その後の動詞は方向性を持ち語尾変化のようにふるまいます。
「A が B に渡す」→ 手の動きが A→B に向かう
「B が A に返す」→ 手の動きが B→A に向かう
このように、空間に配置された対象が格関係(主語・目的語など)を担います。これは音声言語の文法よりも“直感的で原初的”で、文法の萌芽そのものです。
2.文法の前段階を思わせる「図像性」と「象徴性の混在」
音声言語は進化の過程で図像性を大きく失い、記号化が進んで形と意味の関連が薄くなりました。一方、手話は図像性を部分的に残しながらも、文法を完全に持つという珍しい存在です。たとえば、「走る・見る・押す・抱える」といった動作は、“もとの動き”が手話の形として残りやすいのです。この「意味と形の密接さ」は、言語誕生の初期の“象徴化が身体の形を残していた段階”にとても近いといえます。しかし手話はそのまま止まっていたのではありません。図像的な要素は残しつつも、形態素化(最小意味単位への分解)と文法化(規則への昇華)を果たしています。これは、言語の進化初期の姿と高度な文法体系が同居しているという稀有な例です。
3.空間文法は「統語構造の原型」に見える
手話の文法には、音声言語では見えにくくなってしまった“統語の骨組み”が露出しています。その詳細を次に考えてみます。
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