手話研究の星1 カール・カーシュナー③(米教育制度)

手話と聾教育の実態を研究するには、全部回ってみるしかありません。そこでカールの紹介で、すべてを回ってみることにしました。日本からも何人かの研究者が訪問していますが、すべてを回って実態を調査するには、時間だけでなく面談するだけの英語力が必要です。訪問者のほとんどが、「見学」し、文献をもらって帰るだけでした。長期留学生は1か所だけです。私の場合は紹介者に恵まれたことも幸運でした。カールは実践家で社交的でしたから、どの学校にも知り合いがいて、情報も豊富でした。こうして、3大拠点巡りをすることになったのですが、ついでに家族で全米ドライブをしようと夢を実行することにしました。当時、アメリカの旅の本があり、アメリカ文化を実体験してみたい、という別の目的もあって、またとない機会でした。
こうしてLAからワシントンを車で往復ということを考え、カールに相談したところ、彼は突然、大笑いしてしばらく止まりませんでした。彼いわく「アメリカ人はドライブ好きだし、映画でもよくあるが、往復するクレージーはいない」ということでした。しかし笑い転げた後、丁寧にルートの途中の知り合いを紹介してくれ、連絡もとってくれました。私の家族にとっても、一生に一度の大冒険でしたが、おかげでアメリカという広い国土の地域性、いろいろな人種がいる多様性を実体験できて、手話研究や聾教育研究以外の文化理解や思想を学ぶ機会にもなりました。当時から半世紀以上経つので、今はすっかり変わっているでしょうが、今も続いている部分があると思います。それを知るため、しばらくは米国通いが続き、毎年数週間はどこかを訪問するという期間がありました。その間に、人も移動し、組織も変わり、制度も変わっていったので、アメリカという社会の流動性と自由性を学びました。
カールの思想は基本的に、今でいうインクルージョンで、聾児も聴児と同じ環境で学ぶべき、というものです。先生は口話と手話を併用するトータルコミュニケーションです。にほんではTCは教育手段(メソッド)という理解が多いのですが、本来は「理念」「思想」であり、実践手段にこだわりはありません。基本理念は「メッセージを受け取る側に合わせることで、十全な理解を得られる」ということです。手段には口話、手話、筆談、ジェスチャー、イラスト、お芝居、など何を用いてもよく、とくに教育現場においては、生徒の条件に応じて、教師が合わせることが重要なため、教師には多くの技量が求められます。これは口話教育では、生徒が教師に合わせることを求めているので、それに対抗する思想、ということです。使用言語は限定がないため、英語、手話、スペイン語など教師の技量によります。通常は2言語なので、bilingual education二言語教育と呼ばれています。手話だけに限らず、多言語国家であるアメリカでは、二言語教育は必要なものでしたが、教師養成や教科書の問題もあり、コストがかかるのが欠点であり、理想と現実がなかなか結び付かない領域でもあります。
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