手話研究の星4 ウッドワード(James Woodward)

カールのパーティで出会った一人に、スーザン・ディ・サンティスという女性の手話学者がいます。彼女は日本贔屓で、日本文化に深い興味があり、日本語も少し学習していました。日本文化に興味をもったのは、彼女がベジタリアン(菜食主義者)であり、日本食は最高だということでした。彼女は当時、LAの北のサンタバーバラの山奥に住んでいるということで、訪問することになりました。そのパートナーが“Woody”ウッドワードでした。ウッドワードについては、文献で知っていましたが、まさか当人に出会うとは思っていませんでした。彼は仇名のように「森の人」つまり「世捨て人」に近い変人で、菜食主義かつ自然主義で、山小屋のような家に住み、川で泳ぎ、という生活をしていました。彼はストーキーの一番弟子で、彼の業績の最初は「黒人聾女性の手話」というものです。彼によれば、黒人聾女性という最も差別されている人の手話を調査した、ということです。まだ手話研究が世間に知られる前のことですから、その変人ぶりがわかります。彼からはストーキーの人柄について教えてもらいました。彼によれば「手話研究第1世代」です。彼は今もタイとベトナムの国境付近の少数民族の手話を現地で調査しています。
ウッディは当時、アメリカは菜食に向いていないと不満をもらしていました。大豆で作ったハンバーグは実際おいしくないのですが、やむをえず食べている。できれば日本の天ぷらや精進料理を学びたい、ということでした。日本料理の本をたくさん見せてくれました。そして按摩と指圧に興味があって、他人には施術したことがあるが、自分にやってもらったことはない、ということなので、彼に指圧をしてあげました。私自身、肩こりなので、真似事ですが、コツは知っています。サンタバーバラという街は今でも高級住宅街として知られていますが、山の方には別荘が立っていて、その中であえて山小屋に住むというのは、彼に昔のヒッピーのような思想があるからだと思います。そのため大学の定職につくことはなく、非常勤講師として言語学を教えることで糊口をしのぐ生活に満足していたようです。これは名誉や裕福を第一にするアメリカ人の中では「反体制的」で彼を悪く言うひともいましたが、同世代の私には理解できました。言語学的にも、構造主義言語学という当時はすでに古いとされ、生成文法言語学による理論研究が隆盛になっている時代に背を向け、手話の理論的研究よりも実態調査に主軸を置く研究スタイルに、私も深い共感を覚えました。ただ当時の私はまずアメリカ手話学を学ぶことがメインでしたから、理論研究者との出会いが中心でした。その後、彼には3回会う機会があり、最後は日本の民族学博物館で、2011年に菊澤律子先生が開催された「手話の歴史言語学」(第1回)で久しぶりに会ったのが最後です。ちょっととっつきにくい感じは変わりなく、そっけない挨拶を互いに交わしただけでしたが、昔を思い出して、同じく反主流に生きる戦友に会ったような感じがしました。スーザンとはだいぶ前に分かれたようなので、昔の話題には触れられなかったのは残念でした。
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