盛人の日



11月14日を盛人の日にしようという提案をNPO日本ベテランズ倶楽部が提唱しています。「いい(11)とし(14」)」の語呂合わせで、知識・技術・経験・感性の4つの能力を人生の最後まで活かして楽しむことをコンセプトにしているそうです。この考え自体に反対するわけではなくむしろ賛成なのですが、ベテランという用語に抵抗があります。英語のveteranは退役軍人や在郷軍人などの兵役経験者を意味します。経験豊かな人、熟練者という意味もありますが、まず頭に浮かぶのがこれです。日本には今は退役軍人がいないので、ピンと来ないのかもしれませんが、Veterans’ hospitalが全米各地にあり、高齢者の多くが入院しています。日本ではほぼ別の人が対象になっているPTSDなどは戦地から帰ってきて精神を病んだ退役軍人の病気とされています。精神的疾患だけでなく身体的な障害を負う人が入院対象になっていて、納税や教育の義務と並んで軍務が国民の重要な義務の1つである米国にとって、退役軍人の世話は重要な国策です。予算も軍事予算の一部です。日本を例外として、どこの国にも軍があり、軍事費が国家予算の多くを占めています。日本も明治以降、教育も福利厚生もすべて軍事でした。鎖国中の江戸時代を除き、庶民も生産の傍ら兵役もありました。農民も足軽として歩兵になり、反対に下級武士は農業や工業に従事していました。先の敗戦後、兵役は禁止され、職業軍人のみに限定されているのは日本の軍事力を怖れた米軍の戦略といわれる理由がそこにあります。軍事的に見ると、日本では警察が公安委員会、海上保安庁が国土交通省、自衛隊が防衛省と別々の組織に分解され、米国のFBIに相当する国家警察はなく、CIAのような情報機関も明確には存在しません。いわゆる先進国G7の中で軍事的に特異な存在なのが日本です。
障害者対策である福祉も元来は傷痍軍人対策でした。もう傷痍軍人はほぼいなくなり、軍人遺族も孫の世代で制度が消滅しました。日本では防衛予算と福祉予算が軍事対平和のような対立構造になっていて、防衛予算を福祉に回せ、みたいな議論がありますが、外国ではどこでも同じ財布なのです。障害者の中に相当数の傷痍軍人や退役軍人がいるからです。パラリンピックも元は傷病軍人向けでした。軍人のほとんどは民間人で職業軍人は少数です。宇宙飛行士も軍人ですし、政治家になる人も多くいます。軍役経験なしは義務を果たしていない非国民扱いです。もし英語でI am a veteran.と言うと退役軍人と思われます。どこでWhere?と聞かれて会社名を答えると頓珍漢な会話になります。盛人という発想はよいと思いますが、英語でveteranとは言わないように。ぴったりした訳語はなく職業を示す名詞の前にexperienced, skilled, seasoned, expertなどの形容詞がつきます。知識は今も昔も重要です。

veteran

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