VR



VRはバーチャル・リアリティ、仮想現実、という解説が一般的です。この解説を見た時すごい違和感がありました。バーチャルとは何のことだろうか、という疑問です。英語ではvirtualというのを知ってなお疑問が増しました。私の知っているvirtualは「実質上、事実上」という意味であり、仮想という訳語とは合わないのです。実態を知ってから、英語でなぜvirtual realityというのかわかりました。

まず重要なことはfactとrealityの違いを知るべきです。訳すなら事実と現実です。この違いを知るには人間の認知という過程に関する知識が重要です。事実というのは人がどう思うとも、あるいは存在を知らなくてもそこに存在するものです。現実というのは人が存在を認知していることで、いわば頭の中における存在です。リアルrealというのは、本物と同じでなくても、本物のような感じがする、ということです。1つの例えですが、考古学の発見である土器や化石は専門家がそうだと認めているから価値があるのであって、地面の中に埋もれている時は事実としては存在しますが現実にはなっていません。そもそもrealityそのものが事実ではなく、人の認識上の存在です。

たとえばこの文も事実としてはガラス面の下の極小の光点の多数です。それを文字として認識していて、さらにその文字連鎖を言語として認識している、という何重もの認識が重なったものです。本も紙の上のインクの染みです。

さらに事実上の現実として認識するということは、現実ではないということで、確かに脳が過去の経験と照らして作り上げる新たな認識です。「現実のような気がする」ということです。その意味では仮想というのは誤訳だと思います。仮想というのは現実または事実がないものをあるものと仮定することです。仮想敵国という表現がそれを示しています。「現実にあると誤認させる技術」というのが正しいのでしょうが、マーケット上、否定的なニュアンスがあって避けたかったかもしれません。

VR眼鏡を初めて装着して画像を見た時、私は眩暈がしました。脳が混乱したのです。たぶん視覚だけが強く刺激され、認識が追い付けなかったのだと思います。最近は慣れましたが、実際の音を聞く場合と人工音では似たような感覚があり、たぶん聴覚認識が過敏なのかもしれません。その過敏さが外国語学習には役立ちましたし、方言調査などでも役立ちました。視覚が敏感だとVRについていけないかもしれませんが、それは1つの能力だと思って大切にした方がよい、と私は思っています。バーチャルとは実際に存在しないものを存在していると感じるという点では幽霊に似ているかもしれません。幽霊を信じるか信じないか、それはあなた次第です。

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