統計による人工知能



AIブームの昨今ですが、かなり誤解も広がっています。AIはartificial intelligenceつまり人工知能の訳語です。そのため人間の知能を真似たもの、というところまでは合っています。問題は人間の知能のごく一部を利用したものであることで、実際には人間のその方面の知能の能力をはるかに超えています。しかし人間の知能のほんの一部であることは認識しておくべきです。

現在のAIの基本技術はdeep learning深層学習の技法です。深層学習理論の解説は結構難しいのですが、超簡単にいえば統計的な確率の集積です。AI学習が膨大なデータを必要とするのはそのせいです。反対にいうと膨大な量の処理は得意です。人間でいうと経験的知識がそれに該当しますが、人間の場合は比較的少ない量からでも学習します。しかしそのため人により同じ経験をしても得られる知見に差がでてきます。AIは確率の集積なので、機械の個体差に比較的揺れが少なく誰がやってもそれほど差はでませんが、人間の経験による知見と異なることがしばしばあります。そこが人間社会にとって便利な点で、最近は盛んに利用されるようになりました。

もう1つはAIは記憶量がものすごいのと忘れないので、知識量は増える一方で確率は高くなる一方です。人間には記憶の限界があり、適宜忘れるようになっています。その代わり世代によって受け継がれて遺産となっていきます。しかし時間がかかります。人間には歴史という知的な集積がありますが、AIは瞬時の判断なので歴史的集積を一気に取り入れて判断するという特徴があります。

AIは人間を超えるか、みたいな議論を時々見ますが、これは論理的には意味がありません。AIは人間を支援するためのシステムで競争相手ではないからです。現在のAIは人間なしに動くことができません。深層学習には必ず「教師データ」という模範データが必要で、集めたデータと模範データとの差を集積して統計的な結論をだす論理構造なので、模範データ次第で結果に差が出てきます。つまり最初からある仮説が設定されており、その仮説に従って作業していく手法を先験的手法a prioriといいます。日本ではアプリオリといいますが、英語ではアプライオライという方が多いです。それに対し、先験情報なしにデータを集積していく方法を帰納法inductive approachといいますが、完全に先験なしということは理論的にありません。データを集める段階で何らかの仮定があるからです。その偏りを是正するには莫大なデータを集めることで少し修正されます。それがAIです。結果的にAIが導き出した結論は人間の先験的仮定を崩すことも多いので、研究者にとっては便利な方法ということになります。人間はどうしても過去の経験に拘り、偏りを持ちやすいのでAIがその欠点を補っているといえます。

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