如月
令和4年3月2日は旧暦1月30日。旧暦的表現をすると壬寅年睦月晦日甲寅(みずのえとらとしのむつきみそかきのえとら)です。全部漢字で書けるなんてすごいと思いませんか。そして日にちの特定法として、年は干支の60種類、月は別名の12種類、日は月齢の30種類、さらに干支の60種類が指定されています。つまり確率的にいうと60x12x30x60=1,296,000であり、ざっくりといえば130万分の1ということですから、歴史的記録としてはかなりのものです。それで古文書にはこうした月日が書かれており、ぱっと直観的にはわからないものの計算すれば特定できるというアルゴリズムをもったシステムです。西暦法は月日は365通りしかないのですが、年は無制限であり閉鎖系と開放系を組み合わせたアルゴリズムになっています。どちらがいいかの判断は使用上の問題になりますが、数字だと紙に書いた場合、経年劣化してかすれたりして3だか8だか不明という現象や筆記だと1と7が混同されやすいという側面があります。漢字で書けば多少かすれても読み取りがしやすく、また曖昧になったとしても文脈から推定しやすいという側面をもっています。明治以降、この旧暦表記は完全放棄されてしまったので、古文書も読むのに一苦労になりました。考えてみるともったいないような気もします。
今日が睦月晦日ということは明日が如月朔日なのですが、偶然今年はそれが3月3日で、この日は行事や話題も多いので、前倒しいして如月の話を本日にします。如月はどう読んでもジョゲツでキサラギとは読めません。日本文学を学ぶ外国人も困るようで、日本人に聞いても誰も答えてくれません。今はインターネットがあるので簡単に調べられます。辞書によると、寒いので重ね着をするようになり、着更着がきさらぎになったという説が有力だそうです。他にも陽気な気候になるので気更来という説、草木が生え始めるので生更木という説もあるそうで、要は「諸説があります」ということのようです。日本の語源にはこういう諸説が多いですね。これを曖昧として軽蔑するのは現代感覚。昔は諸説による解釈を楽しんでいたのだと思います。それぞれの説をなるほどね、と納得すればよいわけです。漢字の如月は古代中国の字典に「二月を如となす」ということだそうです。こちらは定説だけのようです。
英語のFebruaryはやはりローマ神話のFebruusフェブルウスから来ています。ちなみに英語のテストだとFebruaryとWednesdayを正しく書けない生徒が多くよく出題されます。日本人だけでなくアメリカ人にも多くいますので安心してください。フェブルウスは月の神ですが、古代ローマでは2月に戦没者慰霊祭フェブルアーリアの主神として崇められたそうです。冥府の神は冥王であるプルートーなので、なぜフェブルウスという地味な神なのかよくわかりません。ネットで調べてもほとんど記事がないのですが、神姫プロジェクトというRGPにフェブルウスがあって驚きました。月の神であること2月の語源であることが説明されており三日月の王冠をしています。ゲームキャラクター恐るべしです。もっともいろいろな神話のごちゃまぜなので混乱しそうです。できればこの機会に神話を正しく理解するために学習してくれることも期待したいところです。
如月には洒落た異名があり、初花月、雪消月、雁帰月などがあります。そういえばこの時期、冬に飛来した白鳥などが北に帰っていきます。まだまだ寒いので重ね着をしなければならないのですが、雪が消え、花が咲き始め、渡り鳥が帰っていく自然の変化を見て春の訪れを実感していたのだと思うと現代から見るとうらやましいような感じがしますね。旧暦の文化は残しておきたいと思う人もこれから増えていくのではないかという期待もあって、このコラムを続けています。
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