サイバー検閲
3月12日は世界反サイバー検閲の日です。近代の戦争は電子戦争と呼ばれるようにサイバー攻撃が中心になってきていますが、サイバー攻撃は戦時だけでなく平時にも行われています。そこで攻撃を防御するためにサイトをチェックして怪しいサイトを削除することが日常化しています。しかし怪しいかどうかの判断はサイトやプラットフォームを運営側の価値判断ですから、微妙な問題を含みます。そこでまずサイバーとは何か、検閲の問題を考えます。
Cyberは単純語ではなく接頭語です。サイバー〇〇のような語を形成します。接頭語ということはre-やpro-のような意味をもつが語でない言語単位です。接辞あるいは拘束形態素といいます。この語の語源はギリシア語で「操る、統べる」の意味をもつ接辞でした。そこからサイバネティクスcyberneticsという研究分野が電子工学に創成されました。日本では自動制御学と呼んでいます。こういう命名法はよくあり、「動く」という意味のkine-と合成してkinetics動作学という感じです。サイバネティクスから逆成されてサイバー空間とかサイバー検閲のような語が形成され現在のように電子工学とかコンピュータ科学、情報通信の用語として広がったものです。
同じような語形成としてecologyからエコだけが独立して使われていますが、economyと同じような使われ方をしていて混乱が生じています。実はecoという接辞は古代ギリシア語では「家庭」という意味の同じ単語ですから、本来、同じ意味だったのです。接尾辞の-logyはlogos(論理)から-nomyはnomia(ルール)の意味でしたから、似ていても不思議はないのです。ところが日本語に訳された段階でecologyは環境、economyは経済となったため、混乱したような感じになったわけす。このように語源から探ると意外におもしろい発見があります。
世界反サイバー検閲の日は「国境なき記者団」と「アムネスティ・インターナショナル」により2008年に制定された比較的新しい記念日で祝日というよりインターネット上の表現の自由を守るため、という運動です。世界にはネット検閲や情報操作が行われている国は少なくなく、一方でどの国でもいわゆる公序良俗に反する表現は制限され検閲されています。自由といってもなんでもよいということにはならず、どこで線引きするかは悩ましい問題です。このため表現の自由についてはいつも議論になり、裁判にもなります。誹謗中傷、名誉棄損など定義が非常に難しい問題です。そして誰がその判断をしているのか、がさらに問題です。最近は膨大な情報量の検閲をするのに人間では追いつかないので人工知能(AI)を用いることも多いのですが、機械自体に判断力があるのでなく、あくまでも人間が集めたデータを元に過去の判断基準を統計的に当てはめているので、絶対に公正で偏見がないとまではいいきれません。
情報を発信する側と受信する側は人が違うので価値観も違います。被害は受信者側の判断であり伝達手段をもつ側はそれを想定して検閲を行うのですが、時には伝達者の価値判断が介入してくることがあります。また第三者がその是非を判断することもあります。その第三者が国家である場合が一番問題となるのですが、独裁者がいるとさらに問題が大きくなります。情報伝達やその手段である通信は物理的な技術で、それがサイバネティックスなのですが、いざ社会に実装されて利用が広がると、社会的な問題、とくに政治的な問題を引き起こすことがよくあります。その典型例としてサイバー検閲について是非を考えてみるのに良い機会が反サイバー検閲の日です。
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