左官の日
例によって語呂合わせをすると4月9日はシクなので「しっくい」となり左官の日だそうです。左官屋というのはなぜそう呼ぶのか、これも例によって諸説があります。諸説のうちどれを信じるかは自由ですが、そもそも諸説があるということは誰かが後から理屈をつけたに違いありません。こういう語源を民間語源といいますが、語源のうちの半分以上は民間語源で、ときには説得力がありすぎて本物の語源より真実味があることがあります。西洋語の語源は元がギリシア語やラテン語などから来ており、比較的真実なのですが、日本語は語呂合わせが多いので誰でも作れるということが原因かもしれません。
左官職は宮中での作業をする時に身分の低いままでは宮中に入れないので、臨時に官位を与えたという説が有力のようです。「しゃかん」と呼ばれることもあり、それは昔「沙官・沙翫」という表現であったものが左官と替えられたという説のようです。同じ工事現場には左官の他に大工も出入りしており、こうした木工を右官と呼ぶこともあったそうですが、左大臣、右大臣では左大臣が上というように大工が左官の下というのに納得しなかったので、今では誰もそう呼ばなくなったということです。大工の方は昔は小工というのもあって、偉い方の名称だけが残りました。
今の左官屋は漆喰を使うことは少なくなり、もっぱらコンクリートやプラスチックの壁材が当たり前ですが、少し前までは、塗り壁は漆喰でした。漆喰を英語ではplasterといいますから、左官屋はplastererプラスタラです。プラスターは石膏でもあり、貼り薬でもあります。英語の意味は似たようなものの総括的な名称です。骨折した時に固める石膏型をギプスといいますが、gipsはドイツ語です。医学用語はドイツ語が昔は多かったです。ギプスはいいにくいので、ギブスという表現も広がっています。
何かを塗るという職業は洋の東西を問わず古くからあった職業で、土壁を塗ったり、床を塗る、タイルを貼るなどの仕事は日本の縄文時代からあったようです。縄文時代には竪穴住居の土塀は土を積み上げて作られています。江戸時代には火災を避けるため漆喰で蔵を作ったり、塀を塗ったりしていました。現代でもブロック塀やレンガ塀などが左官屋によって作られています。
漆喰と石膏はよく似たものですが、漆喰は消石灰に麻糸などの繊維質、フノリ・ツノマタなど膠着(こうちゃく)剤を加えて水で練ったもので、砂や粘土を加えることもあり、主に壁の上塗りや石・煉瓦(れんが)のくっつけるのに用います。石膏は酸カルシウムと水からなる天然の鉱物で水成岩・石灰岩・粘土中から採れます。白墨・セメント・彫刻材料などに使用され粘着力はそれほど強くありませんが、水に溶いて塗り、水分が抜けると固まります。英語では曖昧なままplasterと呼ぶことが多いですが、あえて区別する場合はgypsumといいます。ギプスと似ていますが、ジプサムと発音されます。石膏の膏の字は難漢字ですが、動物の油の意味で、膏薬はガマの油のような油薬です。ちなみに「病膏肓に入る」が読めて意味のわかる方は相当の教養人です。
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