恋文



5月23日は例の語呂合わせでコイブミの日だそうです。誰が決めたのかと思ったら映画会社松竹だそうです。浅田次郎原作の映画「ラブ・レター」の公開初日だからだそうですが、逆ではないでしょうか。先にこの日を設定し、公開したと考えるのが普通です。1998年公開だそうです。
ラブレターの昔の言い方が恋文ですが、今の若い人にはピンと来ないかも知れません。東京渋谷に昔、恋文横丁というのがありました。有名になった109やヤマダ電機のあたりのことで中華料理やロシア料理など外地系飲食店が立ち並んでいました。有名店もあったのですが移転していき、再開発されて姿を消しました。
ここを恋文横丁といったのは丹羽文雄が書いた新聞連載小説「恋文」(1953)から来ていて、横丁に実在した恋文屋が舞台になっていたからです。モデルになったのは菅谷篤二さんという恋文の代筆屋さんでこの一角に店を構えて、英語のできない日本女性と米兵の仲をとりもつラブレターの代筆をしていました。英会話は慣れというか聞きかじりでなんとかなるのですが、文章はなかなか大変です。そこで英語の書ける人に代書を頼んだわけです。戦前、戦中は敵性言語ということで英語を勉強できたのはごく限られた人でした。ところが進駐軍がやってきて、軍人相手の商売が急に必要になり、翻訳などの他にこうした女性たちの恋文の代書もすごく流行ったそうです。女性から恋文を出すというのは一般家庭ではほとんどなく、従来、恋文は男性が女性に書くものでしたが、例外が江戸時代の遊女が客に出す恋文でした。もっとも一人に出すのではなく、何人もの客に出していました。当時は郵便などありませんから、遊郭の若い衆に頼んで届けてもらうわけです。そういう人を「文遣い」といい、駄賃を客の旦那からもらっていたそうです。遊女は外に出られませんから、自分でもっていくことはできませんでした。恋文に限らず、江戸時代は手紙を運ぶのは小僧とか子供の役だったようです。正式な手紙や遠くへの手紙は飛脚を使いました。平安時代は恋文ではなく恋の歌であり家来に持って行かせました。郵便が普及すると一般人も恋文を書くようになりました。古い落語家で四代目柳亭痴楽の名作に「ラブレター」というのがあります。誤字、書き間違いと誤読がおもしろいネタです。
また三角関係の純愛を描いた「シラノ・ド・ベルジュラック」では外見に自信が持てない主人公シラノがロクサーヌへの恋心を忍ばせながらも、彼女が恋をしている青年クリスチャンに代わって恋文を代筆するストーリーです。1897年の初演以降、日本をはじめ世界各地で幾度となく上演され、映画化・ミュージカル化されてきました。映画「シラノ」も最近上映されています。

現代ではそもそも手紙を書かなくなったので、若者はどうしているのでしょうね。メールやLINEの短い文で送るのでしょうか。それで充分、思いが伝わるのか不思議な気がします。
ラブレターに関わる歌は古今東西たくさんあります。最近だとYOASOBIの「ラブレター」がヒットしましたが、古くはLove Letter from Canada(カナダからの手紙、平尾昌晃・畑中葉子)、「砂に書いたラブレター」(Love Letter on the Sand by Pat Boone)、Love Letters by Elvis Presleyあたりが古いところです。プレスリーといえばReturn to Senderというのがあり、直訳すれば「宛先不明」なのですが、邦題は「心の届かぬラヴ・レター」となっていて、昔の訳は意訳というか想像して作っています。ラブレターが題名に付いた曲を検索するとたくさんでてきます。GReeeeN、THE BLUE HEARTS、FUNKY MONKEY BABYS、GACKT、河合奈保子、aiko、槇原敬之、THE ALFEE、秦基博、DREAMS COME TRUE、その他(もう書ききれない)です。120曲くらいありました。古今東西、扱いやすい人類に共通したテーマなのでしょう。直接口に出していえないことも文章にしたら伝えることができるというのも昔から変わらないのでしょう。

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