夏も近づく八十八夜
今年は5月2日が八十八夜です。「野にも山にも若葉が茂る」という歌詞は新緑の季節が目に浮かぶようです。八十八夜は立春から数えて88日目ということなのですが、数えなので、現代風の換算だと87日後、ということになります。八十八夜は雑節の一つで、雑節というとなんだか雑な感じがしますが、そうではなく、「いろいろな」という意味です。旧暦だと太陽の運行による季節とのずれが起こるので、季節感や農業との調整として二十四節気や雑節として知らせる昔からの知恵なのです。今の暦のように休日ばかりが強調されるものと違い、暦が生活に密着していた時代の伝統文化です。
なぜ夜という言葉になっているかというと、夜に注意を向けるためです。この時期は遅霜になることもあり、種蒔きや育苗にとって霜は大きな被害をもたらします。それで注意しなさいよ、という意味が込められているのです。今はビニールハウスが増えたので、それほど心配ないかもしれませんが、昔は露地栽培でしたから、霜は大敵でした。藁をかけたり、菰を被せたりと事前準備が大変でした。それでビニールハウスという農法が開発されたわけです。そして重油暖房なども入れるようになり、近年ではコンピュータによる温度管理も進んできて、季節を問わない栽培が可能になり、「いつでも旬」という農産物が増えました。その分、エネルギー消費も増えたので、エネルギー源を輸入に頼っているため、どうしても高価格になっていきます。農産物の高価格がそのまま農業者の収益につながるのであればよいのですが、実際の収益は低いままです。高収入=高収益とはかぎりません。いわゆるコスパの問題です。いくら付加価値を高めてもコスパが低くては儲けになりません。農業を見本として日本の経済はコスパを真剣に考える時期に来ています。太陽光発電のため山野を切り開けば野にも山にも若葉が茂らなくなります。そして設置と廃棄にかかるコストとエネルギー産出のコスパは高いのでしょうか。山野を切り開けば二酸化炭素吸収量は確実に減ります。そして太陽光発電設備生産には膨大な量の二酸化炭素排出とエネルギーを必要としていますし、廃棄にも二酸化炭素排出とエネルギーが必要ですから、きちんと計算しなくてもコスパが低いことが想像できます。もしコスパが高いというのならばきちんと数値で示すべきで、設置しない場合と設置した場合の比較をすべきなのですが、そういうデータをみたことがないのです。
八十八夜は茶摘みだけではなく、そもそも茶摘みは夜、しません。霜注意のための伝統文化ということを理解して、自然と生きてきた昔の知恵を改めて考えてみるよい機会だと思います。茶摘み歌に出てくる「茜襷(あかねたすき)」に「菅(すげ)の笠」ももう見なくなりました。編み笠もプラスチック製が増えました。なんだか…。
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