皐月
新暦5月30日は旧暦皐月朔日で新月です。今日から旧暦の五月が始まり日にちがずれてきます。これまではちょうど一か月遅れでした。皐月とは本来、この漢字なのですが、なぜか五月と書いてサツキと読ませることが多いです。他の月はそういうことはないので不思議な現象ですが、恐らくは皐の字が教育漢字になかったからでしょう。そのせいか「五月晴れ」についての誤解が広がっており、マスコミも時々間違うことがあります。「五月晴れ」は「梅雨の晴れ間」や「梅雨の合間の晴天」を指します。梅雨の長雨で空模様も人々の気分もいまいち優れない時にふと晴れ間が見えてすっきりするときに使う表現です。新暦5月のカラッとした晴天ではなく暑い夏の訪れを予感させる晴れのことでした。従って俳句の季語では梅雨明け直後の晴れ間も「五月晴れ」と呼ぶことから「初夏の季語」となっています。もし「皐月晴れ」と書いていれば旧暦だとわかるので六月の晴れ間であることが想像しやすいと思います。もっとも「五月晴れ」と書くのでサツキバレと読めずゴガツバレと読む人もいるようですから、事態はさらに深刻かもしれません。
皐月をなぜサツキというかについては、早苗月(さなえづき)が省略されて「さつき」になったという説のようです。やはり諸説もあり、神に捧げる稲の意味がある「皐(さ)」に置き換えたものだ、とする説もあるそうです。
皐月にもいろいろな異名があります。これらも日本の長い伝統から生まれてきた日本人の自然観察の結果ですので、文化として残しておきたいものです。
仲夏(ちゅうか):旧暦では卯月から水無月が「夏」です。皐月が夏の真ん中の月だからです。
月不見月(つきみずづき):皐月の頃は現在の梅雨時期と重なります。五月雨(さみだれ)のため月を見ることができないことから「月不見月(つきみずづき)」と呼ばれたようです。
雨月(うづき、うげつ):梅雨時期をもっと直接的に表現しています。
稲苗月(いななえづき):早苗月と同じく田植えを示します。
雨月という呼び名では『雨月物語』という読み本があります。名前はロマンチックですが、中身は日本や中国の古典から拾いだした怪異小説9篇から成っています。作者は江戸時代後期の上田秋成で、作者自身の序によれば「雨がやんで月がおぼろに見える夜に編成したため」だそうです。人気のホラーですから、漫画もいろいろ出ているようです。一部は映画やミュージカル、舞台にもなっています。プレーステーションのゲームもあるそうですから、ネタとして広がりを見せています。
皐月の別名・異称としては五色月(いろいろづき)建午月(けんごげつ)五月雨月(さみだれづき・さつきあめ)写月(しゃげつ)橘月(たちばなづき)梅月(ばいげつ)浴蘭月(よくらんげつ)などがあります。
五月雨については有名な芭蕉の句「五月雨を集めて早し最上川」があります。最初の句は「五月雨を集めて涼し最上川」でしたが、推敲の結果「涼し」が「早し」になりました。芭蕉一行が音連れた年の東北・北陸は異常に暑く芭蕉も暑さに閉口していて最上川の川風を受けて素直に「涼しい」と詠んだのでしょう。今でも山形県大石田では「五月雨を集めて涼し最上川」の方がよく知られているとのことです。『奥の細道』では「早し」に代わっています。芭蕉は実際に最上川の川下りを体験し急流の最上川なので変えたのだとされています。
「五月雨式」という表現は今でも時々使われますが、「ものごとがだらだらと断続的に行われること」という意味が理解されていないようです。本来は連絡事項を一度にではなく追加で複数回にわたって連絡することをお詫びする表現です。本稿も五月雨式が多くお詫び申し上げます。
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