非言語情報
言語がコミュニケーションの主としたツールであることは疑いのないところですが、いわゆる非言語コミュニケーションNon-verbal Communication略してNVCがかなり前から話題になっては消えるという何度かのブームがあります。何をNVCと定義するかによって、内容も構造も変わってきます。ジェスチャーや表情がNVCであることは定説になっていますが、服装や相手との距離、立ち位置や座る位置などの空間学proxemicsも含めると、相当範囲が広がります。NVCの多くは発信者がほぼ意識しないのに対し、受信者が意味を感じる、というタイプのメッセージであることです。そこで、相手に強い印象を与えたり、良い印象を与えるためのテクニックとしてNVCを利用する、というノウハウ本が何年かおきに出てきます。握手の仕方、表情の作り方、声の出し方などを訓練して、意図的に発信する技術を習得して、ビジネスに役立てようというわけです。
NVCに音声が含まれるのかどうかは微妙な問題があります。人がことばを話す時、音素あるいは音韻という言語の基本単位を意識して使用します。これらの要素はセグメントに分けて分析できるので、segmental phonemesといいます。それに対して、音節を跨いだり、語を跨いだり、さらには文全体にかかっていくような音があります。音調やリズム、テンポ、アクセントなどです。これらをsuprasegmental phonemesかぶせ音素と呼んでいます。この中に何を含めるのか、という議論も未だ定まっていません。息継ぎやささやきなど人に共通な要素もある一方、ハスキーボイスなど個人的と思われるものもあります。
バードウイステルというNVC研究者は人と人のコミュニケーションを観察し、コミュニケーションの80%はNVCであるという結論を出していますが、研究者により比率はいろいろあります。実際問題として、受信者がどの程度、何を意味を理解したのかを計測することはなかなか難しいのです。それはNVCが無意識に発信されることと関係があります。そもそもコミュニケーションとは何かということについて、未だ共通理解がありません。
ジェスチャーは文化的影響が強く、後天的に獲得するものですが、発信者は無意識にしています。たとえば、日本では親指を立てて男を、小指を立てて女を示しますが、これは日本独特です。また自分を意味する場合に鼻を指差しますが、これも日本独自です。手話はジェスチャーから発達した言語なので、日本の手話でも同じ動作をします。またジェスチャーは音声とは別々に発信できません。たとえば「よっし」とか勝利の動作は言葉を発しながらします。無意識に発する「よいしょ」「どっこいしょ」でも同じです。ジェスチャーが音声と同時なのは世界共通です。このようにジェスチャーには人類共通の部分と文化に依存する部分があります。表情についても同じことが言えます。非言語情報はそういう側面があることも理解しておきたいです。
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