環境や状況の非言語情報
人間の認識に、自然環境や状況が大きく影響することは日頃実感します。自然環境は自然が発信しているわけではないので、受信者が一方的に認識している情報です。しかし発信者と受信者が環境情報や状況情報を共有していることはよくあることです。その共有関係を利用して、「今日は暑いですね」「そうですね」といった挨拶というコミュニケーションが行われます。この場合の情報内容は実際の暑さのことではなく、共有関係にあることを確認しているにすぎません。情報としての意味内容よりも、伝達関係にあるということが重要で、しかもこういう挨拶こそがコミュニケーションの基本である、とよくいわれます。
非言語情報の研究は「発信者側の論理」の研究がほとんどです。こういうメッセージを出すと、より効果がある、という視点での研究がほとんどです。ビジネス、とくに広告関係の研究が多いので、そうなるのは当然かもしれません。言語情報についても、ほぼ発信者の論理で研究されています。しかしコミュニケーションは受信者の認識が重要であり、受信者がどのように受け止めて、意識を形成していくのかのメカニズムはまだ研究が始まったばかりです。
環境や状況は発信者があるわけではなく、受信者が一方的に認識していくものです。しかし受信者が大きな心理的影響を受けることも昔からわかっています。まだ定量的な研究は見当たりませんが、大きな影響力があることは確かです。
環境には自然環境だけでなく、文化的な環境があります。そのため異文化の環境におかれると、認識や心理形成が大きく変わります。同じ食べ物でも、食べる環境が異なると、別の物に感じることはよくあることです。
状況はさらに複雑です。日本では俗に「空気を読む」という言い方をしますが、人間の集団が作り出す状況のことです。この状況の認知と認識については、個人差が大きく、強く意識する人とほとんど意識しない人の差が大きく、それが「空気を読む力」ということになり、時には集団心理形成の要因となって、同調圧力となることもしばしばあります。同一文化集団における「空気」と異文化集団における「空気」ではかなり異なります。いわゆる感度は異文化であれば強く感じるので、微妙な差異には気づきにくくなりますが、同一文化内では微妙な差異にも敏感に反応します。これを密度と呼ぶこともあります。文化密度が濃いと、より敏感な反応を期待されます。
こうした環境や状況による情報をどう考えるか、についてはさまざまな意見があります。そもそも非言語情報に加えるかどうか、も価値観や思想が反映します。受信者の心理形成に貢献しているという視点ならば、非言語情報に入れてもよいでしょうし、発信者がいないのだから、非言語情報には入れないという視点もあるでしょう。これは非言語情報とは何か、を再考する際の基準として明確にしておかねばなりません。そもそも情報とは何か、という議論にもつながります。
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