話し言葉は揮発性情報
以前にも説明しましたが、情報の揮発性について再考します。揮発というのはその場で消えてなくなることです。アルコールやガソリンは揮発性が高い物質です。
話し言葉は原則的に揮発性情報です。近年は録音技術があり、不揮発性情報にすることが容易になってきました。録音技術のなかった昔は文字によって不揮発化してきました。それが書き言葉として進化していったという歴史があります。そのため、文字を持たない話し言葉だけの言語というのも多く存在します。日本にもアイヌ語という話し言葉だけの言語があり、口承による文学や音楽があります。今では便宜的に日本語のカタカナやアルファベットを用いて辞書作りなどが行われ、また翻訳によって日本語訳になった文学もあります。
手話は話し言葉という表現には抵抗感をもつ人もいると思います。「話し」てはいないし、手の動きで表現しているためです。そして文字はありません。便宜的に日本語で表現して辞書を作ったりしています。今では少なくなりましたが、手話は言語ではない、という偏見や、日本語の一部でしょう、という誤解もありました。またジェスチャーを多く採り入れているため、世界共通ではないかという誤解もあります。しかし手話はほぼ言語分類と同じ、つまり民族と同じ分布をしている話し言葉です。従って揮発性情報です。現在は録画技術の進化で、不揮発化も可能になり、放送やインターネットにより配布も可能になりました。つまり手話の場合、文字による記述という段階がなく、電子化になったため、書き言葉がありません。音声言語の無文字言語はほぼ別言語の文字(アルファベットなど)で記述されてきましたが、手話の場合はそれもほぼない状態です。
書き言葉がない、ということは言語学分析としてはむずかしい対象になります。言語学は書き言葉の分析を核としており、音声学でも音声記号などの文字化が前提になっています。そもそも研究や論文は書き言葉でなされます。講演や口頭発表などの形式はありますが、話し言葉でなされることはなく、書き言葉を口頭でするだけです。
ところが近年、SNSなどにより、書き言葉と話し言葉の混淆のような文体が登場してきました。これを「打ち言葉」という人もいます。不揮発性なので新研究分野です。
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