翻訳の歴史
通訳の歴史も西洋と日本ではかなり事情が違いますが、翻訳の歴史もかなり違います。西洋でも記録の翻訳は昔からありました。有名なのは大英博物館にあるロゼッタ・ストーンは王の業績を称えた碑文で古代エジプト語の神聖文字(ヒエログリフ)と民衆文字(デモティック)、ギリシア文字の、3種類の文字が刻まれています。同一の文章が3種類の文字で記述されていると早くから推測され、1822年、ジャン=フランソワ・シャンポリオンもしくは物理学者のトマス・ヤングによって解読されました。同一の文章という点が微妙ですが、文字だけが異なるとは限らず、語も対応する語で変換されている可能性があるので、厳密には字訳ではなく翻訳と考えることができます。
ヨーロッパで本格的な翻訳がなされたのは、なんといっても聖書翻訳です。聖書にはいろいろな種類がありますが、キリスト教の場合、イエスの言葉を弟子(使徒)が解釈して記録したものが新約聖書です。イエスもユダヤ人ですし、弟子のほとんどもユダヤ人ですから、最初の聖書はユダヤの言語であるヘブライ語で書かれていました。それがギリシア語に翻訳され、さらにラテン語に翻訳されて、中世まではラテン語聖書が中心でした。ヘブライ語とギリシア語の聖書は写本が残っていますが、原典は失われているそうです。いずれの訳にせよ、神の言葉やイエスの言葉の記録ですから、翻訳は正しく伝えるために相当な努力をしたことは間違いありません。後の宗教革命で各国語に翻訳する際も、ヘブライ語、ギリシア語、ラテン語を参照しつつ、各国語に訳すのですから、大変な作業です。その際に頼りになるのが、辞書と文法書です。最初から辞書や文法書があったわけではなく、翻訳作業の中で辞書や文法書も充実していったというのが実際です。今は文学書や技術書の翻訳が盛んですが、宗教という強力な動機がなければ、充実した辞書や文法書はできなかったといえます。辞書や文法書は翻訳される言語(対象言語)と翻訳する言語(目標言語)のセットが必要です。対象言語の方は過去に製作されており、学習すればよいのですが、目標言語の各国語の方は新たに作成しなければなりません。キリスト教の聖書の場合、布教のための努力がなされていますが、1,617言語は 分冊等のみで、何らかが訳されている言語数は3,589言語ありますが、聖書全巻が訳されている言語数は724言語のみだそうです。
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