内包的意味と借用語
内包的意味に文化差が反映される例を説明しましたが、外来語を借用するとその差はさらにひろがります。日本語には英語からの借用語が多く、近年とくに原語とはかけ離れた意味になっているケースが増えてきました。これは辞書の外延的意味だけしか知らないか、意図的に意味をねじまげて借用しているからです。
たとえばマンションは日本では高層の集合住宅を意味しますが、英語のmansionは「屋敷」という意味であり、広い庭gardenや玄関までのアプローチpathの道が長く、広大なイメージがあります。屋敷の中の家はhouseであり、むろん集合住宅ではありません。これは不動産屋がアパートより高級なイメージにしようとして意図的に命名した用語です。最近はタワーマンションというのもあり、こちらは確かに高級イメージですが、英語でtower mansionと聞くと、とても違和感があります。日本語で「塔屋敷」とすれば、その違和感が理解できるでしょう。屋敷の中に塔があることは確かにありえますが、屋敷そのものが塔になっているのは異様です。
不動産業界はマションに限らず、ビラとかメゾンとかアパートの名称にやたらカタカナを付けるのが好みのようです。購入側はそういう名称にあまり魅力は感じていないように思うのですが、どうなのでしょう。昔は〇〇荘のような名称のアパートが多かったと思います。この荘にしても、別荘など大きなお屋敷にも使われていたので、そういうニュアンスを利用したのでしょうか。結局のところ、内包的意味も使われていくうちに古臭くなり、新しい語を求めていく、という言語変化といえます。人により、状況により変わるだけでなく、時間的にも変わっていく性質があります。しかし外延的意味はほとんど変化しません。むしろ変化したら困ることが多いのです。
しかし借用語の場合、外延的意味も無視して音型だけを導入することもしばしばあります。マンションはその典型例といえます。中には音型まで間違って導入されることもあります。賞という意味のawardは誰が間違ったのか不明ですが、いつのまにか「アワード」という形で定着してしまい、マスコミでは当然のように使われて誰も異論をはさみません。日本語的に発音するならアウォードで、日本人に発音できないほどではないのですが、たぶん文字から推測したのだと思われます。意味は外延的意味をそのまま導入していますが、英語とは少しずつニュアンスが変わってきています。英語には「奨学金の授与」とか「裁判の裁定」という意味もあるのですが、日本語では表彰の意味に限定されています。結果として、日本語のアワードには好意的な意味だけですが、英語の場合はそうでない内包的意味があることもあります。
近年は氾濫といえるほど、英語からの借用語が増え、とくに英語をよく知らない官僚や流行を商売とする人に誤用傾向が顕著です。やたらカタカナ語を振り回すのは、何かをごまかそうとする意図があることが多いので、カタカナ語の内包的意味をよく理解しておくのが賢明です。
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