個別言語学と一般言語学


個別言語学と一般言語学

言語研究の方法には、特定の1つの言語だけを研究する分野と、広く複数の言語や人間の言語の一般性を研究する分野があります。前者が個別言語学あるいは特定言語学、後者を一般言語学といいます。わかりやすく言えば、前者の例が国語学、後者がいわゆる言語学です。

1つの分野を深く掘り下げていく研究方法を深化と呼んでいます。反対に広く一般性を追求する研究方法が一般化です。この2つは概念的には対立しているように見えますが、実際は相互に関係しています。よく例に挙げられる説明として、「穴を掘る」ことがあります。穴を深く掘ろうとすれば、ある程度、間口を広げないと深くは掘れません。反対に間口を広げてばかりではなかなか深くはなりません。この例は学生に研究方法を指導する時によく用います。たとえばゲーム作成に夢中で、よりおもしろいゲーム作りをしている人に対して、マニアックにそれを突き詰めていくと、ある段階で行き詰ってしまいます。その時、ゲームに使われる美術や音楽やIT技術への関心を広げ、さらには心理学や人間学、歴史学や社会現象へと関心を広げることで、新しいゲーム作成への展開がでてくるものです。一方で、あちこちに関心を広げて知識を漁っているだけでは、なかなか深化しません。つまり2つの研究方法は表裏一体というか、相関的な関係にあります。ただこのバランスとタイミングがけっこう難しいのです。どうしても偏りがちになります。

穴掘りの例でいうと、スコップで穴掘りをしていた時代と異なり、近年の工業技術により、狭い間口から何キロという深い所まで掘るボーリングという方法もある一方で、ブルドーザやショベルカーなどで、一気に間口を広げる方法もあります。こうした工業技術を学問分野にも応用しようという試みも増えてきています。それを可能にしているのが、データベースと統計的解析、深層学習(Deep Learning)です。言語研究は基本的に記録された言語データの分析ですから、データベース化により、研究速度は一気に上がります。しかし、よく考えてみると、データベースと統計解析は一般化が前提で、間口を広げる手法の延長線です。ではボーリングに相当する言語研究の深化とは何か、というと、まだ方法が見つかっていない、というのが現状です。

日本語の研究を例にとると、今は日本学という一般言語学的手法が主流になっています。日本語だけに対象を限らず、英語や他の言語との比較によって、相対的な特徴を見つけ出す、という手法です。異なる言語を比較するには、共通となるツールが必要で、必然的にそれは一般言語学の知識と枠組みということになります。言語学で最初に習う、音素、形態素、句構造といった構成要素や枠組みは一般言語学のものです。こうした一般的な要素や枠組みは比較には役立ちますが、深くその言語を研究する時にはどうしても共通していない漏れがでます。その言語に特有な現象があるからです。欧米の言語は同じ語族に属しているので、この個別言語に特有の現象は比較的少なく、むしろ共通な部分が多いので、一般言語学もそこから出発しています。

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