学問分野のパラダイムシフト



このところ相対論と普遍論についてご説明してきましたが、この対立する思想はあらゆる分野に影響しています。まず政治経済の世界でいえば、グローバリズムは普遍論が前提で、ナショナリズムあるいはローカリズムは相対論が前提となっています。世界でグローバルに展開する、ということは商品でいえば1つの商品に多少変化をつけながら、世界を相手に商売をすることです。現在のコンピュータのOSはマイクロソフトとアップル、グーグルが世界展開をしていて、それを使わざるをえない状況になっています。統一というのは完全に1つにならなくても、同じ規準で普及させれば統一といえます。しかしこのOSの統一だけでは実際に使用されるアプリケーション(ソフトウエア)は言語という壁があり、言語ごとに作成せざるをえない相対論的なものになります。プログラムは英語で統一されていて、その文法も普遍的でないと混乱が起こります。ただ1つのプログラミング言語ですべての用が足りるわけではないので、目的別に多様化します。

このように普遍論と相対論は完全に対立しているのではなく融合的な関係にあります。

本年11月のアメリカ大統領選挙関係のニュースが増えてきましたが、バイデン対トランプという個人対決のように見えますが、実際は民主党対共和党という政治勢力の戦いであり、その政治勢力の違いは思想の違いです。両党とも長い歴史があり、思想も歴史的な変遷がありますが、現在は民主党が多様性を強調し、グローバルな世界を推進しようとしているのに対し、共和党はアメリカ優先の思想です。その結果、民主党は移民政策を始め、LGBT平等化、中絶の容認などの思想を展開してきました。共和党はその反対の思想を持ち、政権を奪取して社会を変えようとしています。こういう思想による枠組みの変換をパラダイムシフトと呼んでいます。政治の世界は確実なことはあまりないので、大統領選の結果はまだわかりませんが、アメリカだけに限らず、ヨーロッパの中でも、思想的な変換が行われつつある転換期のような現象が多くあります。テレビニュースのコメントは「右傾化」という表現を使うことが多いのですが、そうだとすると現在は「左傾化」しているということを前提としていますから、パラダイムシフトが起きている、ということになります。

言語学の世界では、20世紀後半を支配してきた生成文法という普遍論的言語論にそろそろ陰りが見えてきて、21世紀に入ると相対論的な言語論が増えてきています。やはりパラダイムシフトが起きつつあるといえます。専門的な内容はここでは避けますが、典型的なものが言語起源論です。

チョムスキーらが唱えた生得説に疑問をもつ人が増え、環境説による理論が増え、また言語の起源は1つの祖語から出発したのではなく、多くの言語がそれぞれに発達したと考える人が増えました。人類の祖先についても同様な多次元起源論が増え、DNAの分布などの比較によって、その証拠とする説も出てきました。完全にどちらか、ということではなく融合的な傾向にあります。

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