春彼岸の入り


お墓参り

「暑さ寒さも彼岸まで」という諺があります。今年の彼岸の中日は20日ですが、もうその頃には冬のような寒い日はないと思われます。春の暖かさが実感される季節です。彼岸は昔からの伝統的行事ですが、太陽暦のため新暦でも同じ頃にやってきます。ちなみに3月20日は旧暦だとまだ2月11日でかなり早い彼岸ということになります。日の出は地域により多少の差がありますが、東京だと5:45ですから、実際の夜明けはもう少し早く5時半頃から明るくなってきます。

「春は、あけぼの。やうやう白くなりゆく、山ぎは少し明りて、紫だちたる雲の細くたなびきたる」という枕草子の冒頭は有名ですが、早起きして外を見れば、共感が得られる時節です。もっとも昔の京と違い、周囲に山が見える地域は少なく、高いビルばかりですから、「山ぎは」が見えるには相当の田舎まで行かないと経験できないかもしれません。それでもビルの谷間から朝焼けが見えることは確かです。雲がたなびく姿は気象条件によりますが、可能性は今でもあります。

彼岸は仏教の行事で中日を挟んだ7日間を彼岸会(ひがんえ)といいます。中日を今日では「春分の日」というため、混乱する人もいるようですが、それでもお墓参りに行ったりするので、なんとなく受け入れられているようです。彼岸という用語は仏教ではいわゆる「あの世」の意味で、この世は此岸(しがん)といいます。この世は煩悩や迷いに満ちているので、いろいろな修行をして煩悩を断ち切り、悩みの海を渡って到達する悟りの世界があの世ということになります。今では、あの世といえば死後の世界と同義に考える人が多いのですが、死ねばよい、ということではなく、修行して悟ることが必要です。その修行のことを六波羅蜜(ろくはらみつ)といい、その修行により、死後に菩薩になることが必要です。しかしそれはなかなか大変なことです。そこで彼岸の日に極楽浄土を想像し、修行に励む機会とするのが本来の仏教的な意義です。彼岸は春と秋にあり、春分と秋分には太陽が真東から上り真西に沈むところから、彼岸と此岸が通じやすくなると考え、そのため、あの世にいるご先祖様の供養をする仏事が定着したと考えられています。お墓参りにはお花や食べ物などをお供えしますが、近年はカラスや動物による食い荒らしがあるので、できるだけお持ち帰りするような習慣になってきています。お供えの他に、時節の食べ物として、旬のものがあります。蕗の薹(ふきのとう)や土筆(つくし)、菜の花などが伝統的なものですが、今は近所の山野から手に入れることはむずかしいので、スーパーなどで買うことになります。天ぷらやおひたし、卵とじのような調理が一般的です。こうした季節の野菜の他には仏事ですから、精進料理を食べることもあります。お寺で出る豪華な精進料理だけでなく、家庭では赤飯、寿司、そば、うどんなども精進料理に入ります。できれば肉類は避けたいので、寿司も野菜と卵のチラシにしたり、カレーを避けるなどの工夫は必要でしょうが、ご先祖様がお好きだったかもしれませんから、それほど厳密でなく、供養の気持ちが大切だと思われます。

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