補綴(プロセーシス)
補綴(ほてつ)という専門用語は主として医学系で使用されています。医学用語は昔に翻訳されたまま現在も使われていることが多く、一般にはなじみのない語が多いです。一時期はドイツ語、今では英語が多く、わざと一般人にはわからなくしているのではないか、と疑いたくなります。
補綴とは足りなくなった部分を補うことをいいます。一番わかりやすい例が歯医者のかぶせ物や入れ歯などです。正確には義歯が該当します。
英語でProsthesisというので、プロセーシスという場合もあり、ドイツ語ではProtheseというためプロテーゼということもあります。その中でも身体の表面につける人工物をEpitheseというため、エピテーゼという用語もあります。乳癌治療により切除された乳房の代替、義手や義足なども含めてエピテーゼというそうです。美容整形の医療用人工物もこれに入るそうです。
補綴で最近、よく知られるようになったのは、スポーツ用車椅子と陸上スポーツ用の義足でしょう。パラリンピックでメダルをとる選手もでてきて、車椅子テニス、車椅子バスケットボールなどはスポーツ番組でも取り上げられるほど進化してきました。冬のパラリンピックでもスキーなどで有名選手がでてきています。これらのスポーツ選手は肢体障害の人が中心で、それまでアスリートとしてやってきて、事故などで障害者となり、一時は絶望した後にパラスポーツを知り、訓練をして、一流選手になっていった人がほとんどです。ある意味、元々スポーツ選手としての才能があった人といえます。しかし、それにしても、補綴器具によって新しい人生を見出したのは素晴らしいことです。それほど顕著ではなくとも、一般の人でも補綴器具によって、生活や物の見方、大げさにいえば人生観が変わる人は多いです。いわゆるQOL(quality of life)が向上することが普通です。眼鏡も補綴の1つですし、眼鏡がないと不便です。入れ歯や義歯も生活に必要です。まして義腕や義足などは、なくなった時のショックが大きく、精神的に落ち込みやすいのですが、そこから立ち上がって、リハビリ訓練していく中で、精神的に得るものがあります。何かが「できない」という負の気持ちが、「できるようになる」という正の気持ちに変わることは人生観に大きな影響を与えます。こうして得た新たな人生観は、肉体的欠損による喪失感の前と後では大きな違いがあり、人間的な成長を得られることが大きいようです。
補綴は物により肉体の一部の欠損を補うことですが、人間の肉体は機械の部品と異なり、とりかえることが簡単でない分、補完できた時の喜びは大きいといえます。
近年は補綴器具が元の肉体の機能を越えた能力をもつ場合もあります。電子機器の発達は補綴がメカニカルな補完であった時代とは異なり、高度な判断力をもつことが可能であり、AIを組み込んだ補綴器具が今後は増えていくと予想されます。介護支援ロボットのように補綴の域を超えて、通常の人間のパワーより大きな力を与えることもあり、補綴の概念も変わるでしょう。
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