幽霊の日
7月26日は幽霊の日だそうです。そんな日もあるのかと調べてみたら、文政八年(1825)7月26日に江戸中村座において四代目鶴屋南北作の『東海道四谷怪談』が初演されたことを記念しているのだそうです。旧暦のことなので、本当は新暦にするのはまずいのではないかと思います。それこそ元の日が幽霊になってしまいます。
日本の幽霊は足がないことになっていますが、それは歌舞伎役者の尾上松緑が考えた演出だといわれています。『東海道四谷怪談』を演じることになった尾上松緑は怖さを感じさせる演出を考えていて幽霊の足をなくすというアイデアを思いついたのだそうです。効果は狙い通りに観客から「怖い」と評判になり今の幽霊の姿につながるものとなったのだそうです。なので江戸時代以前の幽霊には足があったのですね。歌舞伎の演出というのはいろいろ工夫と伝統があります。たとえば雪の降る場面では、ドンドンとゆっくり太鼓が鳴ります。雪が降る時に音がするはずがないのですが、どの場面でも雪降りのシーンでは太鼓がなるので、いつも見ているうちに刷り込まれてしまいます。同様のSF(sound effect=効果音)は映画にも受け継がれ、人を斬る場面ではブシュッという音がはいります。この伝統はアニメにも受け継がれていて、効果音だらけです。
ディズニーランドのホーンテッドマンションのお化けは足があって、走り回っています。日本人には幽霊に思えないかも知れませんし、怖がる人は少ないように思います。むしろお化け屋敷の幽霊の方がイメージを刷り込まれているのと同じなので恐怖を感じるようです。幽霊の登場場面ではドロドロドロという太鼓の連打があり、ヒューという横笛の音がするのも歌舞伎の演出から来ています。この演出は落語や講談の演出にも使われています。
怪談といえば夏の風物詩ですが、それは幽霊の日に合わせて演じられたのが元だと言われています。今ではお盆にご先祖様をお迎えする時期が多くなっていますが、ご先祖様と幽霊を一緒にするのは何とも不敬なことです。幽霊は「魂魄(こんぱく)この世に留まりて恨み晴らさずおくべきか」という決まり文句をいいますが、古文ですから、今の人に通じるかどうか。そして恨みがあるから出てきて呪うわけですが、ご先祖様はあの世から戻ってこられて、子孫を守ってくださっているのですから、正反対です。
幽霊に足がないのが定番ですが、牡丹灯籠という怪談ではカランコロンという下駄の音がする、という演出になっています。足がなくても下駄だけは動くのですね。これも音による怖さの演出で効果音といえます。なぜ効果音があるかというと、人間は視覚だけよりも、聴覚その他の感覚が併用されることで、よりリアリティを感じるからです。お化け屋敷でも音だけでなく、こんにゃくで触ったりして触覚による恐怖を追加しています。最近のVRやメタバースでも振動を加えるなどの演出をしています。歌舞伎もメタバースと相性がいいらしく、新演出がでてきています。ボーカロイドとの共演とか、いろいろ工夫がなされていて歌舞伎=古典とはかぎらないです。
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