マス・ローカリズム


地域社会

マス・ローカリズムという思想をごぞんじでしょうか。10年以上前にイギリスで主張が始まり、日本でもじわじわと広がりつつある社会思想です。マス・ローカリズムとは、地域社会から国家を再構築するビジョンと戦略に関する考え方です。「大規模・集中・グローバル」から「小規模・分散・ローカル」への転換を目指し、持続可能な地域社会づくりを推進することを目的としています。地域ごとの多様性を活かし、地域間での学び合いや共進化を促進することで、新たな地域政策形成を目指すものです。

日本の近現代史を見ると、世の中全体の転換のサイクルはほぼ30年です。ペリー来航から15年後に明治維新を迎え、その10年後には西南戦争を経て、全国的な新体制が確立しました。しかし、時代の流れに反する政権は長続きせず、本来の時代の歩みへと還っていくものです。日本が大規模・集中による成長経済に変貌した高度成長期の決定的転換は1960年代の10年間に集中しています。10年で食料自給率は79%から60%、木材自給率は87%から45%、エネルギー自給率は58%から15%へと急落しました。1990年代はバブル崩壊への対応に追われました。そして「構造改革」の名の下、さらなる大規模・集中化を進めることにより窮地を脱しようという戦略に打って出ました。エネルギー分野では原子力発電所の増強です。2000年には一次エネルギー比率で史上最高の12.6%を占めるに至っています。そして今は再エネ運動です。エネルギー・商業・行政における大規模・集中化の失敗は、循環型社会の基本原則と逆行していたこと、という分析もあります。商業分野では2000年前後の大規模店舗に関する法律の廃止等により、郊外型の大規模ショッピングセンター建設を野放しにしてしまいました。その結果、地方都市の中心街はシャッター街化し、域内経済循環はズタズタにされ、地方ごとの特徴ある美しい景観は失われてしまいました。行政分野では平成の大合併により、縁辺部の小さな自治体を潰し、行政の大規模・集中化は地域の自己決定権を失わせ、地域の多くは衰退の一途をたどっています。マス・ローカリズムによれば今はエネルギーや資源、食料の地域内循環だけでなく、地域ごとに地元を創り直す時代だというわけです。社会や経済の中枢の人々は、「失われた30年」に大規模・集中化を先導し、それで地位を築いてきた人々ですが、今は世代交代が進んでいます。振り返えれば、1990年代からの30年間も順調な歩みではありませんでした。いつの間にか、「失われた20年」は「失われた30年」へと延びています。そして数多くの改革路線が提唱されました。しかし、その多くは一過性で、大部分の国民や地域を置き去りにして頂上部分の利益のみを加速させて終わっています。移民を導入して、人口が増えれば現在の様々な問題が解決するわけでもなく、必ずしも私たちが幸せに暮らしていけるわけでもありません。人口減少に警鐘を鳴らしているのは成功体験のある高齢者ばかりで、国民の多くはそうした声に影響を受けているだけのことかもしれません。

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