土潤溽暑



旧暦水無月晦日は土潤溽暑(つちうるおうてむしあつし)という七十二候の1つです。溽=むしあついと読みます。非常に蒸し暑い様を溽暑(じゅくしょ)といい、梅雨が終わり、夏真っ盛りになる頃の湿気の多い蒸すような暑さを意味します。こういう漢字と言葉は残しておきたい日本遺産ですね。土が潤うというのは、地面が湿気を帯びて蒸し蒸しする感覚を表現したもので、実際には強い太陽光で熱をもち乾燥します。この土の熱を「土熱れ(つちいきれ)」と表現しますが、今では道路のほとんどが舗装されて土が見えませんから、土熱れを感じることはなくなってしまいました。舗装された道路のコンクリートが熱くなるのは実感しますから、犬の散歩や子供には注意しないといけません。大人が顔で感じる暑さの数倍の熱さになっています。溽暑はそのまま季語になり、真夏を意味しています。今は天気予報で真夏日とか猛暑日、酷暑日などと分類していて、そちらの方が馴染みがあります。こちらは物理的に気温で分類しているので、実感とは多少のずれがあります。
七十二侯というのは二十四節気をさらに三分割したもので、季節のようすが文章のような表現になっていて、より具体的にイメージできるようになっている暦です。元は古代中国で作られたものですが、日本とは気候が違うので、日本で時々改訂されたものです。全部覚えていることなど不可能で、暦を見ながら、ああこんな時期なのだな、という感覚を味わうものです。日本の天気予報の時間には二十四節気を紹介することは多いのですが、なぜか七十二侯には触れません。海外の天気予報ではこうした季節の紹介はなく、日本では桜前線とか紅葉前線などの紹介があるのを見た外国人が日本の天気予報が情緒的なのに驚くようです。
この時期に旬を迎える食べ物には穴子、枝豆、西瓜、胡瓜、素麺がありますが、市場の関係で実際には早くから出ていますし、気候の関係で不作の年もあります。土用の丑の日に鰻を食べる習慣になっていますが、むしろ穴子が旬を迎えて脂が乘るので、本当はこちらの方がお勧めです。枝豆にビールが昔からの日本の夏の風物詩でしたが、最近は海外でも枝豆の人気がでてきて、生産もされるようになり、今は輸入物が増えました。
土潤溽暑に日本の学校は夏休みになり、各地の山も山開きをし、海でも海水浴をしますが、海は土用波が立ち始め危険が増し、事故も増えます。日本だけでなく、北半球は熱くなり熱波が襲う地域が増えます。中国では重慶、武漢、南昌、長沙を四大火炉といい、竈の中にいるような暑さとされています。欧米ではheat domeといい、チーズドームのように高気圧が覆うので、中に熱が籠って猛暑になります。体温を超える暑さは生命に危険が及びますから、熱中(熱にあたる)症になると死に至ることもあります。中という字は「中毒」のように「あたる」と読みます。字義を知ることで知識も増えます。七十二侯の文字で漢字を勉強することも大切なので、土潤溽暑も良い機会だと思います。暑苦しいなどと思わず涼しく勉強してみましょう。

土潤溽暑

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