契約と約束
契約と約束は似ているようで非なるものです。日本語ではどちらも約が付くので混同しやすいのです。むろんビジネスマンは区別をしていると思いますが、一般人はその違いがよく分かっていないことが多いのです。英語では契約はcontract、約束は promiseで別々の語ですし、カタカナ語にしてコントラクト、プロミスといえば日本人でも区別しやすいかもしれません。普通は漢語の方がわかりやすいのですが、時には同じ字でできた漢語は意味が似ていると混同されやすくなります。他にも条約にも約がついていて意味が似ていますが、英語ではtreatyとこれも別語になっています。実は漢語の訳語はもともとあったわけでなく、英語を訳す時に作られた新造語なので、訳語を作った人の責任かもしれません。
契約の定義は「2 つの異なる個人またはグループ間の正式な合意、または契約自体を記載および説明する法的文書」(https://dictionary.cambridge.org/dictionary/english/contract translated by Google)となっていて、文書であることが重要とされています。Promiseは「必ず何かをすると誰かに伝えるために(する行為)」(同上に加筆)ということで、文書であることを必要としません。また契約とは「契約とは、互いに対立する2個以上の意思表示の合意によって成立する法律行為です」(https://mg-keiyaku.com/keiyaku/)という定義もあります。法律的な拘束力がある、ということです。一方、「約束は、法律行為ではない2者以上の合意です。」(同上)と解説しているサイトもあります。両者の合意がある点は同じですから、そこが似ていますが、結果として守らないと、契約には法律的な罰則があるのに対し、約束は信頼を失うだけ、という解説もあります。どちらが被害が大きいかは価値観によって違います。
契約が文書による、という感覚は近年のものといえそうです。キリスト教やユダヤ教では「神との契約」ということをいいますが、文書にはなっていません。聖書には七つの契約について書かれています。そのうちの四つ(アブラハム契約、土地の契約、モーセ契約とダビデ契約)は神がイスラエルと交わした無条件の性質をもった契約です。三つ(アダム契約、ノア契約と新しい契約)は神が人類と交わした契約であり、イスラエルのみに向けられた物ではないとされています。これらの契約は信者のみが対象であり、信者でない人には適用されません。またここでいる契約を英語ではcovenantと別の語になっていますから、西洋人にはcontractと混同することはないのですが、普通の日本人にはなじみのない英語で、同じ契約という訳語なので、混同してもやむをえないのです。しかしcovenantには誓約、盟約などの訳語の他に捺印証書といった法律用語もあって、なかなか一筋縄ではいかないです。契約書contractよりも(神に誓う)という意味が含意されている誓約による契約なので、その意味はより強くなっています。日本では捺印文書の意味がだんだん薄くなってきていますが、公正証書はまだハードルが高く、今後どうなっていくのでしょう。
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