手話の雑学42

ではなぜ、自動車の構造を教えないのでしょうか。それは運転免許証の試験にでないからです。昔は運転免許の試験に構造と法規があり、基本的な構造を学びました。もっとも多くの人は構造の学習は「めんどくさい」ので関心が薄く、不満も大きかったので、次第に省略されるようになり、法規と実技が中心になりました。それくらい、構造の理解というのは抽象的でむずかしいものです。抽象的つまり目に見えないものの理解は高度なのです。
自動車の構造は機械なので、一定の構造になっていますが、言語の構造は、機械と違い、さらに抽象的なので、さらに難解です。そして抽象的構造というのは理論化する学者によって、バラバラであることが、さらに問題を複雑にしています。少しむずかしい話になりますが、文法というものを理解していただくには、「枠組み」という概念を理解する必要があります。英語でframeworkというので、そのままフレームワークという人もいます。「枠組み(わくぐみ)」という言葉は、ちょっと抽象的ですが、基本的には「考え方や行動を整理するための見取り図」のことです。もう少しやさしく言うと、「ものごとを考えるときの“メガネ”」や「話を進めるための“箱”」のようなものです。たとえば、歴史の出来事を理解するときに「政治の視点」から見るか、「経済の視点」から見るかで、同じ出来事の意味がまったく変わりますよね。この「政治的に見る」「経済的に見る」というのが、まさに“枠組み”です。どのような視点や前提を使って世界を切り取るか、それを決めるのが枠組みです。たとえば、友人と「いい会社とは何か」を話すとします。ある人は「利益を出す会社がいい」と言い、別の人は「社員が幸せな会社がいい」と言うかもしれません。二人は言い争っているようでも、実は「いい会社とは何を基準にするのか」という“枠組み”が違っているだけなのです。基準が違えば、当然答えも違う。議論のすれ違いの多くは、この枠組みのズレに気づかないところから生まれます。
学問の世界では枠組みがとても大事です。心理学なら「人間の心をどう定義するか」、言語学なら「言語をどんなしくみとしてとらえるか」、歴史学なら「なにを歴史の原因とみなすか」これらを決めるのが枠組みです。つまり、どんな事実を重視し、どんなものを背景として扱うかを決めるルールのようなものなのです。そして注意すべきなのは、枠組みは「真理そのもの」ではなく、「真理を探すための道具」だということです。メガネが現実そのものではないように、枠組みも世界を直接あらわすものではありません。だから、時代が変われば枠組みも変わります。昔の人が「病気=悪霊」と考えたのも、当時の枠組み。現代では「病気=ウイルスや生活習慣」と考える。どちらも、その時代の知識で世界を整理しようとした結果です。結局のところ、「枠組み」とは、私たちが世界を理解するための“見えない地図”です。そして学ぶという行為は、この地図を時々描き直し、広げていくことでもあります。
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