手話の雑学69

音韻を考えるについて、まず一般言語学における形態素と音素の定義から再考することになります。何度も繰り返しになりますが「形態素とは意味の最小単位」となっています。しかし「音素の定義」は、実はまだシンプルな定義はありません。音素を考える上で重要な概念が「異音(いおん)」です。
音声原語研究において、音素(おんそ、phoneme)とは、ある言語において意味の違いを生み出す最小の音の単位のことです。たとえば日本語で「か」と「が」を比べると、「かき」と「がき」では意味が異なりますね。このとき /k/ と /g/ は意味の違いを作るので、別の音素とされます。逆に、「か」を少し強く発音したり弱く発音したりしても意味は変わりません。その範囲の発音差は、音素の「異音(いおん、allophone)」と呼ばれます。
つまり、
音素:意味の違いを作る抽象的な音の単位
異音:音素の具体的な発音のバリエーション
という関係です。
英語を例にすると、「pin」と「spin」の /p/ は発音が違います。前者は強く息を出して [pʰ]、後者は弱く [p] と発音されますが、どちらも英語では同じ音素 /p/ に属します。これらのように、音声としては違っても意味を区別しない場合、同一の音素とみなされます。
音素はあくまで言語ごとの抽象的な単位であり、言語が変わると音素の区別も変わります。たとえば日本語では /r/ と /l/ の区別がありませんが、英語では「light」と「right」のように意味を分けるため、別の音素になります。要するに音素とは、「聴覚的には似ていても、話し手・聞き手が「別のことば」と感じるかどうかを決める、言語内部のルールによる音の単位」なのです。音素は、実際の音声学(phonetics)よりも一段抽象的な、音韻論(phonology)の世界の概念です。
こうした例を参考にして、日本手話を考える時、「視覚的には似ていても、手話する側、手話を読む側が別の表現と感じるかどうかを決める、言語内部のルールによる動作の単位」と言い換えられそうです。そして「手話音韻論」という抽象的な学問の世界の概念、ということになります。「別の語と感じる」ということを音声学では「対立opposition, contrast」と呼んでいます。この概念を利用して「音素とは対立する異音の群」という定義はこういうことです。そそこでまず「日本手話の異音」について考えてみましょう。たとえば「手話」という表現は、標準的には左右の1本指ですが、指文字の「レ」のように、親指を立てる表現や、指文字「テ」のような手全体で表現する場合があります。この場合の手の形の違いは「別のことば」として認識されていないので、「異音」ということになります。異音という表現では「音」という文字に引っかかる人もいると思われます。その場合は「異動作」とすれば解決するかもしれません。
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