考証を考証する



最近のテレビドラマを見ていると、考証不足が目につきます。アニメの方は聖地巡りがブームのこともあって、背景の実地検証とか時代考証などをかなりきちんとやっています。昔のアニメは製作上の制限もあって動かない背景とか適当な街並みを描くのが普通でした。なのでディズニーアニメで周囲の動物や植物が動くというリアリティに人手と時間をかけてきたことが感動を呼ぶ理由でもありました。初期の日本アニメは主人公の動きだけをセル画にして、背景は固定化して合成撮影する手法が当たり前でした。時間と予算の制約のため、そうせざるをえなかったという事情がありました。そのため考証の必要のない抽象的な一般的な風景にしていたわけです。サザエさんやドラえもんの家が不自然という指摘はマニアの間では有名な話です。
映画の方は画面作りに心血を注ぐ製作者が多く、画面の細部まで考証をしました。初期のモノクロ映画はそこまでの余裕がなく、光源を太陽光に頼っていてスタジオ録画が難しいため、ロケーション撮影が中心で、そのため背景に映ってはいけない人や背景が入っていましたが、見る方も気にしていませんでした。写真が動くこと自体が驚異的だったわけです。歌舞伎などの舞台は書き割りと大道具という固定的な背景で場面展開をするのが普通で、それに合わせてシナリオがあり、ライティングや効果音で補強する手法は今でも使われています。最近はレーザやCGを取り入れることも増えてきています。それでもリハーサルを重ね、考証を重ねて本番になります。
テレビドラマは映画作りのスタッフがそのまま制作していたので、初期の頃は背景と状況が限定されるスタジオ撮影とロケ撮影を組み合わせて制作していました。録画がなかった時代はいろいろミスがありましたが、見る方は気にしていませんでした。しかしスタジオ撮影には限定が多いため、録画が可能になり映画同様になると、ロケとスタジオの中間ともいえるセット撮影が増えていきました。映画の撮影所を利用することも多く、いわゆる時代劇は太秦撮影所が多いので、テレビ時代劇ファンは太秦撮影所が「聖地」だったわけです。映画セットはシナリオに関係なく普遍的な利用を可能にするため、時代考証もした家並みと小道具が配置されています。逆にいうと時代劇の時代もそこに限定されるため、太秦利用時代劇といえば江戸時代ばかりになりました。それ以外の時代のドラマを作るには大掛かりなセットが必要になります。そうして制作れた大がかりなセットはそのまま観光地化していきました。人気のユニバーサルスタジオも元はそれです。
ところがCGの発達により映画やドラマの制作方法が変わってきました。それまでは現物を撮影するという光学的手法しかなかったものが、電子的手法により画面が作成できるようになったことで、実際に存在しないものが現実に見える、つまり仮想現実VRが増えていきました。VRは現実にないものをあるように認識させる技術であるため、事実の検証が不可欠です。実在のものを強調し変形することで現実には存在しないものを創作するので綿密な考証が不可欠です。たとえば昔の建物の内部をVRにするには膨大な量の文献から構築するという作業が前提になっています。

撮影

2024年11月
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