入梅
旧暦皐月13日は入梅です。今では梅雨入りを気象庁が発表しマスコミがそれを流すというのが一般的であり、気象条件が地域によって異なるため、地域ごとに気象台が梅雨入り宣言をする習慣になっていて、年により地域により梅雨入りが異なります。
入梅と梅雨入りは同じ意味ですが、旧暦の入梅は決まっており、黄経が80°の時またはその日となっていて定まっています。二十四節気ではなく、彼岸などと同じく雑節と呼ばれる季節の習慣です。八十八夜を雑節で立春から数えて88日目というように、入梅は立春から数えて135日目という決め方もあったようです。入梅はその日を指すのが普通ですが、一部地域では梅雨の頃全体を指すこともあるそうです。入があれば出があるのが理屈で、梅雨の場合は梅雨明け宣言がありますが、出梅という表現は聞いたことがありませんから、今は使われていないのでしょうね。入梅の時期の決め方にもいろいろあったようで、立夏後の最初の庚(かのえ)の日、芒種後の最初の丙(ひのえ)の日、芒種後の最初の壬(みずのえ)の日と諸説あるのは、やはり地域による違いがあるのと、そもそも天候不順な時期だからと思われます。同様に出梅の日もまちまちで、入梅と出梅の組み合わせが幾通りもあります。
梅雨と書いて「つゆ」と読むので漢字テストに出題されるのですが、元々は「ばいう」だったそうです。中国では黴(カビ)の生えやすい時季の雨という意味で黴雨(ばいう)と呼んでいたからですが、この時期に梅の実が熟す、あるいは梅漬けを作る時期なので梅の雨に変えたという説もあり「諸説があります」のパターンです。梅雨入りは「ついり」と読むこともあるそうなので、漢字テストの時にはぜひお試しを。
梅雨の時期には梅漬けを作るのも大切ですが、雨が多いので田植えの時期でもあり、農業にとって重要です。現代でも農家でない人にとってカビ対策の時期ですから、マスコミの洗剤の宣伝が増えます。昔は洗剤などありませんから、もっぱら酢が使われたようです。食中毒の季節でもあるので梅干しやラッキョウがよく食べられました。酢の物がよいので、いろいろ種類があります。洋風ならピクルスやマリネです。江戸時代までは入梅いわしという習慣もあったそうで、この時期獲れるイワシは脂が乘っておいしい時期なので、お金持ちや身分の高い人たちが焼いたイワシを配ったとか。こういう習慣は残しておいてほしいものです。今では入梅イワシはこの時期のイワシの意味だけで、イワシが獲れる港町では祭りがあります。またイワシではなくジャコご飯にして振る舞うこともあるようです。ジャコは雑魚が訛ったもので、本来はイワシ類の魚の稚魚全般を指す言葉でしたが、シラスも同じものです。カタクチイワシの稚魚を釜茹でして干したものをチリメンジャコと呼ぶのは主として関西地方で、同じものをシラス干しと呼ぶのは関東地方です。チリメンは縮緬と書き絹織物ですが、細かな皺が寄っているところが似ているのでチリメンジャコと呼びます。縮緬は縮み織りまたは単に縮みといい、柔らかな風合いが好まれました。産地として丹後(京都府)や長浜(滋賀県)、越後(新潟県)が知られています。水戸黄門が「越後の縮緬問屋の隠居」と名乗っている、あの越後縮緬です。縮織りは西洋のクレープ織と同じですが、西洋では絹ばかりでなく綿もあり、現代では化学繊維もあります。皺があることで柔らかさがあるので服の裏地などに使われることが多いです。食べ物のクレープも柔らかさから来た名称です。梅干しにも皺があり、皺は本来良いものなのです。
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