利休忌とチェルノブイリ
3月28日は旧暦2月26日で千利休忌です。表千家と裏千家では利休を偲んで盛大な茶会が開かれます。しかしお祭りのようは晴れ事ではなく忌事なので、地味に穏やかな茶会となります。むしろその方がわび・さびがわかるような気もします。茶道には詳しくないのと、千家以外の茶道もあるので、これ以上細部にこだわるのは止めます。ご興味のある方は書籍やネットに情報がいくらでもありますから、そちらをご覧になってください。1つだけネタを提供しておきたいのですが、「利休鼠」という色があります。北原白秋作詞の「城ヶ島の雨」という歌で「雨はふるふる城ヶ島の磯に利休鼠の雨がふる」という下りがあります。この雨の色がどんな色なのか想像してみるとおもしろいです。緑がかった灰色で、とくに利休が好んだわけではなく、なんとなく高尚な感じがして理由の名前を使ったとか。色名にはいろいろな命名した人の思惑があります。
1979年3月28日はスリーマイル島原発の事故があった日です。ウクライナのチェルノブイリ原発事故は1986年4月26日でほぼ7年後です。そして福島第一原発の2011年3月11日の東北大震災がいつも比較されます。原発事故という点では共通かもしれませんし、被害も共通するかもしれませんが、福島の場合、原因がまったく違うのを同一レベルで論じるのは科学的ではないと思われます。まずスリーマイルの場合、二次冷却系用非常給水ラインを閉じたまま原子炉の運転を継続したことが事故要因とされています。チェルノブイリの場合は、4つの原子炉のうちの4号炉が実験中に制御不能に陥り、炉心溶融(メルトダウン)の後に爆発したことによります。福島第一の場合は、まず地震があって、その津波が発電所を襲い非常用ディーゼル発電機が津波の海水により故障し、さらに全電源喪失になってポンプを稼働できなくなり、原子炉内部や使用済み核燃料プールへの注水が不可能となったことで、核燃料の冷却ができなくなりました。核燃料は運転停止後も膨大な崩壊熱を発するため、注水し続けなければ原子炉内が空焚きとなり、核燃料が自らの熱で溶け出す。炉心溶融(メルトダウン)が起きました。このようにスリーマイル(米)、チェルノブイリ(ソ)は人為的な事故であったのに対し、日本の福島は自然災害が原因であったので、結果は同じでも科学的には別扱いにすべきだと思うのです。
そして原爆による被害と原発による被害も被曝という点は同じでも、原因が異なるので科学的には別に考えるべきだと思うのです。無論、異論があることは想像できますが、再発を防ぐという視点からすると、原因の追究がまずあって、それに対する対策をとることが先決です。
核兵器は敵を殺傷することが目的の非人道的な兵器です。原発は電力を得ることが目的ですからそもそもの目的が違います。そして人為的な事故を防ぐ対策と自然災害の結果起こる二次的な事故では対策が異なります。たとえば同じ火事でも、放火によるもの、タバコの火の不始末、調理中の火災、地震時の火災では、対策が異なります。原子力は科学の発展の結果、人類が獲得した技術ですから、科学的な対策が重要になるのは当然のことです。再発防止対策を考える時にも化学的思考が重要になります。しかし現状、原子力については政治や社会運動が大きな影響を与えており、状況により対策も揺れ動いています。原発も電力を得るための1手段という位置づけになり、他の発電方法と同列に議論されています。果たしてそれでいいのか、その議論はこうした事故の起きた日に再考してみることはよい機会だと思われます。とくに戦争などで地下資源からエネルギーを得ることが困難になってくると、自然資源から電力を得るのか原発の再稼働はどうするかの議論はとかく経済効率だけで議論されがちです。科学を経済の基準だけで判断してよいかという根本が重要です。こんな時、わび・さびという精神世界を考える日が偶然重なっています。原発被害も偶然、春ばかりです。偶然、にも何か意味があるのか、考えてみたいです。
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