啓蟄



3月5日は旧暦如月三日です。この日から如月節(二月節)に入り、睦月の雨水が終わって、次の二十四節気の啓蟄(けいちつ)になります。啓は「開く」という意味で、蟄は「虫などが閉じこもる」ことをいいます。啓蒙といえば蒙を開くということで、知識がない人に専門的な内容を教えることです。現代からすると上から目線の表現なので嫌われるかもしれませんが、昔は字の読めない人もたくさんいて、書物を読んで知識をもつということは大変なことだったわけです。
蟄居といえば時代劇によく出てくる刑罰の一つで不祥事があると蟄居つまり家から出ないで謹慎することをいいます。似たような刑罰に閉門というのがあり門を閉じて出入り禁止にすることです。大体2つははセットで閉門蟄居となります。幽閉というのもありますが、これは洞穴とか塔の中とか一室に閉じ込めることで西洋によくあります。緩い罰としては隠居というのがあり、地位を後継者に譲ることになります。自分で引退することもありますから、あまり刑罰という感じはしませんが、命令で隠居という場合もあるわけです。蟄という字は他ではあまりみません。
啓蟄は冬ごもりしていた虫たちが穴から這い出てくる、ということで暖かくなって冬が終わることを意味しています。テレビでは立春や啓蟄などがその日であるかのような誤解をさせる表現がありますが、事実は二十四節気の始まりの日であって、啓蟄も本日から半月間続きます。如月には啓蟄と春分があります。春分も現在はその日だけと思われていますが、半月あるのです。

こういう季節感は日本や中国だけでなく、欧米にも見られます。英語でgroudhog dayというのがあり、2月2日に北米で行われる一種の気象占いの日です。グラウンドホッグとはマーモセットというリスに似た動物の1種でウッドチャックともいいます。この動物は2月2日に巣穴から出てきて、自分の影を見てまだ春ではないと思いまた巣穴に戻ってしまう、とされています。自分の影が見えるということは天候が晴れなのでまだ春の到来は遅いとされ、影が見えない場合は曇りなので春が近い、という言い伝えになっています。晴れの日が続けば春が近いような感覚になるのが日本ですが、欧米では冬に晴天が多いので、こういう感覚になります。この動物が巣穴から出てくることで天候を占うという慣習の元はドイツのアナグマによる気象占いが起源のようです。

2月2日はカトリックの聖燭祭に当たっており、この日にクリスマスの飾りを外し、ツリーを燃やすという行事があります。日本の正月後のどんど焼きと同じ考えです。ヨーロッパは冬が長いので、この日までクリスマスがあるわけです。聖燭祭とは「マリアとヨセフは律法の定めに従い、イエスを生後40日後にエルサレム神殿に連れて来て、産後の汚れの潔めの式を受けるとともに、イエスを神に捧げた」という行事を記念した祝祭だそうです。カトリックや聖公会などプロテスタントの一部にはこうした祝祭日が多く、日本の行事の数に負けず劣らずです。似たような習慣があるのは、歴史のある行事が自然の変化に忠実であったことから来るものでしょう。現代は洋の東西を問わず、近代文明による生活の変化が目まぐるしくなって、自然と共に生きた昔の生活習慣がどんどん消えていっています。

日本の節気が半月という期間であるのに対し、欧米ではほとんどその日だけの行事になっています。しかしクリスマスやイースターなどは1週間以上続く祝祭期間があり、前後を含めて1か月であることもあって昔はもっと季節的な行事だったと思われます。欧米の場合、宗教的行事なので今でも残っている地域が多いのですが日本は旧暦を廃棄したついでに習慣もなくなりました。

啓蟄

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