服装の非言語情報(2)
服装が非言語情報の1つであることは前のコラムでご説明しました。服装は文化を明白に反映しています。また歴史的変化も豊かです。衣服はアクセサリやメークアップ、ヘアスタイル、帽子、手袋、靴などにも関係し、多様なバリエーションがあります。ファッション傾向としては、次々に付加していく加算傾向と減らしていく減算傾向があります。昔はどちらかというと防寒的な意味と制服などの社会階級を加算傾向にありましたが、最近は減算傾向になってきています。いわゆる露出の多いファッションが増え、とくに若い女性によるコスプレやアイドルの衣装なのが、昔なら「きわどい」として排除されていたものです。
また水着など、本来の目的から逸脱し、写真を撮るための衣装として広がっており、本来、見せるべきでない下着まで登場しています。
減算傾向の究極は全裸ですが、さすがに公序良俗に反するとして、法的に禁止される国がほとんどです。一方でイスラム教など保守色の強い宗教では、女性が肌を見せることを禁じており、顔を見せることさえ制限している文化もあります。
近代以前の社会では、男女区別だけでなく、年齢による区別も行われていました。日本の中世では、武家の男子が成人として公認されることを、元服(げんぷく)という服装用語を用いており、烏帽子(えぼし)という冠を被ることから、成人になるに当たり、有力者の庇護を受けられるように烏帽子親になってもらい、名前をもらうことがありました。名前をもらうことで親類扱いとなり面倒をみてもらう制度です。欧米では洗礼という儀式によって洗礼名をもらうのですが、その名づけ親がGod fatherで、やはり親戚同様になるのは、日本の烏帽子親と同じ思想です。
近年になって、とくにIT業界などの会社の代表がTシャツで講演や発表することが流行るようになりました。その影響かどうか、ウクライナのゼレンスキー大統領は軍服を着ないで、特注のTシャツをどこにでも着用しています。国連総会という公の場でも同じスタイルでした。もはやTシャツにスニーカーはカジュアル・ウエアではなく、フォーマルな場にも着用できるようになりまた。これも減算傾向の延長線上といえます。
こうした場面に合わせた服装のマナーをTPOというのですが、もう誰も気にしていないみたいです。TPOとはTime Place Occasionの略ということも忘れ去られたでしょうね。日本語では「時と場合」と2つだけを想定するようです。場合にplaceとoccasionを含めているようです。分類は考え方の問題で要因をどうまとめるかも思想の問題なので、どちらでもよいと思います。
TPOは服装などが相手の心理に影響を与えることを意識せよ、というビジネス上の技術だったのですが、昔の日本のサラリーマンが「どぶねずみ」という蔑称で呼ばれた没個性のスーツを着ていたことへの反省なのですが、未だリクルートスーツなどが残っていて、案外強固な文化です。
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