Indigenous People
8月9日はInternational Day of the World's Indigenous Peoplesです。1994年12月の国連総会で制定された国際デーの一つです。日本ではこれを国際先住民の日と訳しています。世界には推定3億7000万人の先住民がおり、90ヵ国に住んでいます。先住民は人権・環境・開発・教育・健康・経済・社会開発などの分野において問題に直面しています。国際社会は、先住民の権利を保護し、独自の文化と生活様式を維持するために特別な措置が必要であると認識しているということです。
Indigenousというのはなじみのない英語ですが、ラテン語に由来する専門用語で原義は「原住のとか、土着の」という意味です。日本語の先住というのとはニュアンスがかなり異なります。そもそも先住民というのは植民地主義の征服者の視点から、その土地に住んでいる人々を見下した表現で、日本語の土人というのと似ています。現代でいうなら、移民から見た現地人です。アメリカには原住民として、いわゆるインディアンという蔑称で呼ばれた人々が住んでいて、そこに後からやってきたスペイン人やイギリス人たちが土地や財産を奪い、時には虐殺して征服していった歴史があります。インディアンは蔑称なので、Native Americansと呼ぶようになりました。このnativeはindigenousと同義です。アメリカ大陸における植民地開拓の前に、ヨーロッパ人はアフリカ大陸でも同じようなことを行い、インドなどのアジアでも同じことをしてきました。
実は土着といわれている人々にも歴史があり、いつからそこに住んでいたかについては歴史もあります。一つの土地に同じ人々がずっと住んでいたというのは珍しく、長い間には住民も変わりました。中には滅んだ人々もいます。先住民というのはあくまでも現時点での征服者と被征服者の関係を示しているにすぎません。征服者の視点からは、現在の被征服者以前に別の住民がいたかどうかは無関心です。また現在先住民と呼ばれている人々もそれ以前に住んでいた人々には関心がなく、自分たちが今も住んでいて迫害されていることのみを主張することになります。
現在の先住民はかつて征服者であって、その時に住んでいた人々は先先住民となるのですが、それが議論になることはありません。つまり先住民問題というのは現状のことであり、歴史は関係ないわけです。アメリカのような移民国家では、Native Americansを除くと移民した年代だけの違いで、いわば旧移民と新移民がいます。ややこしいのは、新移民が旧移民を征服したのではなく、難民や不法移民などが新移民層を形成していることです。この新移民問題は21世紀になって急増し、今やどの国でも国内問題として大きなテーマになっています。
つまり先住民としてひとくくりにして差別解消を叫ぶだけでは解決にならず、住民は常に移動し、移動の歴史があるのですが、そういう民族移動の経験の薄い日本人には世界の情勢が理解できないのも無理のないことかもしれません。
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